2017年07月18日
社会・生活
企画室
大林 裕子
毎朝、近所の家の玄関先で「ニャー、ニャー」と大きな声で鳴く白黒の猫がいる。しばらく鳴いていると、ドアが開いて玄関の中に入れてもらっているので、てっきり飼い猫かと思っていた。実は、野良猫なのだそうだ。
その家で飼っている老猫のもとに遊びに来ているうちに、すっかり顔なじみになり、ちゃっかり朝ごはんをいただいているらしい。ただ、家に入るのは食事のときだけ。満腹になると、すぐに外に出て道路をウロウロしたり、花壇の周りでゴロゴロ...。そして、道行く人が近づこうものなら、警戒して怖い目つきでキッと睨み、ささ~っと逃げてしまう。私も何度か近づいてみたが、まったくダメだった。
ところが半年前頃から 近所の小学校低学年の女の子が白黒猫と仲良くしている光景をよく見かけるようになった。白黒猫は女の子には安心してすり寄り、なでてもらっている。猫の好物で餌付けしているわけではなく、ただただ時間をかけて少しずつ仲良くなったらしい。その女の子にだけなついているから、両者の間には深い信頼関係を感じる。
それが最近、道行く人が声をかけると、この白黒猫は機嫌よく「ニャー」と返事をするようになった。顔つきも以前より優しい雰囲気になっている。大人の人間にはまだ心を完全に許したわけではないようで、触ろうとすると逃げていってしまう。だが、以前よりはずっと距離が縮まり、ここまで変化したとは驚きだ。
女の子が愛情をもって接するうちに、人間に対する警戒心が和らぎ、心が開いていったのかもしれない。
野良猫は風雨に耐え、猫同士で縄張りを争う。それに加えて人間に追い払われたり、いじめられたりもする。家猫に比べると気性が荒く、顔や目つきが怖い。でも、この女の子のように根気強く愛情をもって友達になろうとすれば、猫は心を開き、こんなにも変わるものなのか...。
先日の朝、自宅マンションの入り口に白黒猫がちょこんと座っていた。「おはよう~」と声をかけてみると、大きな声で「ニャー」と返事が返ってきた。なんだか嬉しかった。もう少し仲良くなれたら、なでさせてくれるようになるかもしれない。もしも猫語が分かったら、女の子とのつながりや今の気持ちを聞いてみたい。人間と人間の関係も同じだろう。相手を尊重して丁寧に接していけば、やがて心が通い始めるはずだ。
(写真)筆者
大林 裕子