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「人手不足」がわが家を直撃

=「深夜プラン」まで提示で、引っ越しの現場は重い負担=

2017年08月03日

社会・生活

研究員
木下 紗江

 夏の真っ盛り、わが家は引っ越しをすることになった。早速、インターネットで2社(以下、A社とB社)に見積もりを依頼すると、すぐにA社が来てくれるという。

 他人が家に上がることに少なからぬ緊張を覚えて待っていると、やって来たのはとても丁寧な口調で好感の持てる営業マン。ひとまず安心した。最初に聞かれたのは「引っ越し希望日はいつですか?」ということだった。

 平日は仕事があるので、土日や祝日から3日ほどを候補として回答。すると、彼はおもむろにカバンからタブレットを取り出して、部屋の中を見回しながら、「冷蔵庫1、テーブル1、テレビ...」と家財道具の数の入力を始めた。そして、会社に電話をかけて何かやり取りをしているのだが、聞いているとどうも雲行きが怪しい気配が伝わってくる。

 電話を切るなり、「大変申し訳ありません。希望日はいずれもお引き受けすることができません。当面、土日は全て埋まってしまっています。平日であればなんとかできるのですが...」と言われてしまった。

 詳しく聞いてみると、いわゆる繁忙期といわれる3月以外の時期の引っ越し需要も増えているが、人手もトラックも足りずに対応しきれないのだそうだ。仮に、トラックだけが足りない場合には、同業社と融通しあうことも可能だが、それ以前に人手が確保できないという。その後、B社も見積もりに来てくれたが、全く同じような状況だった。今年に入って、宅配便の人手不足が話題になっていたが、わが家もその直撃を受けることになってしまった。

 「仕方ない、平日でお願いしようか」と思っていると、B社から「深夜に搬出し、翌日早朝に引っ越し先へ搬入するのであれば、なんとか対応します」と提案があった。「深夜に家財道具を運び出すなんて、まるで夜逃げ?」と考えてしまい、どうも気が進まない。そもそも当日はどこで寝ればよいのだろう。

 ふと、細々とした荷物は旅行カバンや大きな紙袋に詰め込み、両手で抱えて電車で何往復かするアイデアが思い浮かんだ。引っ越し業者には大物家具だけを頼むことにすれば、手間が減るので、引き受けてもらいやすくなると考えたのだ。しかし、その考えは甘かった。大型の荷物を運ぶには、最低でも2人の人員が必要だからだ。その上、わが家の前の道路は狭い一方通行のため、トラックを無人にすることはできず、待機人員も1人必要になるという。つまり、荷物を多少減らしたところで3人のスタッフを要することに変わりはないのだそうだ。

 「ああ、行き詰った!」と困り果てていると、「キャンセルが出たので、第一便の朝9時搬出でよろしければ、希望日でお受けできます」とB社から連絡が入り、有り難く飛びついた。しかし、彼らはわが家にやってくる前に、「前日深夜出し、早朝搬入」の仕事をひとつ片付けているのかもしれない。土日に集中する依頼をさばくために、1日に何組も詰め込むように仕事を受けていては、現場で働く人たちの負担はますます重くなる。人手不足に拍車を掛けてしまうのではないだろうか。希望の日程で引っ越しできたことに感謝しながらも、少々複雑な心境だった。

20170803_02.jpg(写真)筆者

木下 紗江

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