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合掌造りの里・白川郷で魅せられた「刺し子さん」の姿

=伝統を守り進化を遂げる匠の技術=

2017年11月22日

社会・生活

企画室
岩下 祐子

 記憶とは不思議なもので、20年前の家族写真を見ると、ある懐かしい思い出がまざまざと蘇る。一緒に写っているのは初老の女性。合掌造り集落で有名な岐阜県白川郷で、日本の伝統的な縫い方である「刺し子」に従事する「刺し子さん」である。家の縁側の一角を作業場にし、黙々と針を刺していた光景が昨日のことのように思い出される。

 刺し子といえばだれもが知っているのは、藍色の木綿に木綿の白い糸で図形などの模様を刺したものだろう。重ね合わせた布の補強と保湿のための機能性も併せ持つ。ふきんや柔道着、剣道着にもこの模様はよくみられる。民芸品としては「飛騨刺し子」が有名だ。

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20年前の白川郷の「刺し子さん」
伝統を受け継ぎ一針一針に思いを込める

 思い出となったきっかけは、テレビのドキュメント番組である。長年にわたり受け継がれている技術を将来にも残そうと布に一針一針刺す匠の姿に感銘を受けた。そしてぜひ会ってみたいという衝動が抑えきれなくなった私は両親を説得し、翌年、白川郷まで家族旅行で出掛けたのだ。実際にお会いしたときには、涙があふれ出すほど嬉しかったことが今でも忘れられない。昔のままの姿を保つ白川郷であったことも感動を倍加させたのかもしれない。

 実際、白川郷に足を踏み入れると、伝統を守り継ごうとする知恵が凝縮されていることがうかがえる。合掌造り集落の屋根は、45度から60度の傾きとなっており、豪雪地帯の雪下ろしの作業をしやすくしたり、水はけのしやすさを考えて造られているのだ。また、釘を1本も使わず、丈夫な縄で固定されているため、雪の重さや風の強さにも耐えられる造りになっている。そして、白川郷の合掌造りの家は、屋根にまんべんなく太陽が当たるように向きが統一されて建っている。

20171122_02.jpg20年前の白川郷
その様式は今も変わっていない

 白川郷の合掌造り集落は、富山県五箇山の合掌造り集落とともに、1995年にユネスコの世界文化遺産に登録されて以降、観光客が増え続け、白川村観光統計によると、2016年は前年比4%増の約180万人が訪れた。特に近年は、為替の影響などで外国人観光客の増加が目立ち、2016年は前年の何と2倍強に当たる56万人にも上ったという。国・地域別の内訳でみると、台湾45%、中国16%、タイ10%となっている。同村では、これまで主流だった団体旅行から時間やルートの制約が少ない個人旅行に軸足が移り、レンタカーや路線・定期観光バスの利用者が増えた影響もあると分析している。

 それだけでなく、ホームページで英語版をリニューアルしたり、スマートフォンで英語版を表示したりと新たな試みも怠っていない。決して伝統にあぐらをかいているだけではないのだ。便利になった通信ネットワークをうまく利用してもらうことで観光客は今後ますます増えていくだろう。

 刺し子もまた伝統を守りつつも進化を遂げようとしている。2018年のサッカーワールドカップロシア大会に臨む日本代表の新ホームユニフォームに伝統色である深い藍色(勝色)と刺し子柄が採用されている。侍の着物からインスピレーションを受けた形状に日の丸の赤を配色して世界で勝利を目指す日本を表現している。単なる伝統工芸にとどまらず、日本代表が活躍すればするほど世界に刺し子をアピールできる絶好の機会になるのではないかと確信している。

(写真)筆者

岩下 祐子

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