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もっと高みを目指しませんか?

=心地よい領域から挑戦へ=

2018年11月22日

社会・生活

企画室長
古賀 雅之

 過ごしやすい季節を迎え、経験のなかったスポーツや資格試験に挑戦している人も多いのではないだろうか。ただ、最初に設定した目標に届かなかったり、途中であきらめたりするケースも多い。思い描いたゴールにたどり着くには何が必要なのか。個人の「最高価値」を引き出し、最高のパフォーマンスに結びつける独自の手法を研究し、企業や学校での研修も手がける統合共育研究所の大野雅之・代表取締役に聞いた。


20181122.jpg大野 雅之氏(おおの・まさゆき)
 株式会社統合共育研究所代表取締役。NPO法人国際メンターシップ協会理事。メビウス人財育成グラジュエートスクール学長。大阪経済大学経営学部講師。


 ―子どものころの夢を実現できる人はごくわずか。仕事などでも目標を達成できないことはよくあります。やる気を持続し、夢をかなえる上で重要なことは何でしょう。

 夢の内容を具体的に「言語化」することです。目を閉じたとき絵が浮かぶようにする「ビジュアル化」も大事です。例えば、プロサッカーの本田圭佑選手は小学校4年生の文集で「今はヘタだけどガンバッて必ず世界一になる。Wカップで有名になって、ぼくは外国から呼ばれてヨーロッパのセリエAに入団します。そして、レギュラーになって10番で活躍します」という夢を綴っています。自分が成功しているイメージを思い描き、それを言葉にしていたわけです。科学的にはこれらを「サイコ・サイバネティクス効果」と言います。

 サイバネティクスは「舵取り・追尾」という意味です。目標に向かう途中でズレが生じれば素早くそれを察知し、自動的に修正するという考え方です。巡航ミサイルはこの理論を応用して開発されたと言えば解りやすいでしょう。

 同じように「人間の脳も具体的な目標を設定すると、無意識に目標達成に向かうようになる」とする理論がサイコ・サイバネティクスです。私たちの脳にはこのような自動制御システムがプログラムされていて、具体的な目標を設定すると作動すると言われています。

 この効果は近未来より、道のりが長い「人生の目標」に対して強く働くと言われています。遠い先の目標を明確にしておくことが重要なのです。私はこれを「人生のナビ設定」と呼んでいます。

 ―途中で迷っても自動的に目標に誘(いざな)ってくれるというわけですね。本田選手のような人たちは、生まれ持った才能があったからこそ成功したのでは、と思ってしまいがちですが...

 本田選手の場合、大阪ガンバ・ジュニアユース時代のコーチが「あの子がJリーガーになるとは思っていなかった」と口を揃えて言っています。誰から見ても明らかな才能が初めからあったわけではなく、具体的な夢を「言語化」「ビジュアル化」し、人一倍の努力をしたから成功したのでしょう。

 もちろん、全てのサッカー少年がJリーガーになれるわけではありません。その意味で、人生のナビ設定は何回でも変えていいと思います。持って生まれた資質や受けた教育、それまでの努力が夢と合致した場合に、その目標に向かって進むべきです。そうした条件が揃っていなければ、ナビに設定する行き先を変えた方がいい場合もある。本田選手は人生のナビ設定を変更する必要がなかったというふうに理解すべきだと考えます。

 では、ナビ設定を変えるべきかどうかを知るための一番の近道は何か。やや禅問答的になりますが、会社員なら与えられた仕事をこれ以上努力できないレベルまでやり通すことです。そうすれば、自分がその仕事に向いているか、あるいは自分が本当にやりたいことなのかに気づくはずです。

 ―私はボウリングをしていて、第5フレームまで全てストライクを取ったことがあります。この調子で第10フレームまでいけば目標に据えた200点(パーフェクトで300点)は確実に取れると思ったのですが、結果は199点。第6フレームから大崩れしました。この場合、何がいけなかったのでしょう。

 おそらく無意識に脳で限界を決めていたのでしょう。現実的ではなくても目標を250点に設定したらどうだったでしょうか?プロテニスの大坂なおみ選手の場合、どんなに窮地に陥っても「世界一になる」と大きな夢を抱き、「自分は大丈夫」と言い聞かせているそうです。プロ野球のイチロー選手も、打率6割を目指すことで能力を最大限に引き出しています。このように目標を変えるだけで、私たちに見える世界は変わってきます。パラダイム(ものの見方、認識)のシフトが重要なのです。

 ―夢の実現や自分の成長に向け、高めの目標を設定するという姿勢が大事なのですね。

 その通りです。本人の自主性・自発性が持つポテンシャル(潜在力)は、他人からの指示・命令あるいは給与などの処遇といった外発的な動機付けより、はるかに強力です。先日、ある放送局で部活動の「時間短縮化」の特集を取り上げていました。かつては県大会にも出場できなかった広島県のある高校のサッカー部が、県大会ベスト8に進む強豪校になったそうです。そのカギは限られた練習時間の中での「自主性」と「ミーティング」。具体的には、練習メニューなど重要なことを生徒たちが意見をぶつけあいながら決めているそうです。番組内では顧問の先生が「人に言われてやるよりも、自分で『これが足りない』と思ってやったほうが3倍力がつく」と発言されていました。だから国や会社、上司が自分を成長させてくれると思わず、自分で自分の生き方を決めるしかない。それが本当の幸せにつながるのです。

【インタビューを終えて】
―コンフォートゾーンからの脱却―

 筆者は2012年から5年間、リコーの「メンタリング研究会」のリーダーとして、「元気の良い会社」の実現のためにメンタリングプログラムの構築と実践に携わった。その際に、指導を仰いだのが大野氏である。

 大野氏との再会により、心地よい領域(=コンフォート・ゾーン)(1)に安住することをよしとしない。つまり、チャレンジングな目標を掲げ、それを強く自分の頭でイメージしながら、その目標に向かって自発的・自律的に邁進することが自分の成長にいかに大切であるか再認識することになった。また、米国ゼネラル・エレクトリック社の最高経営責任者であったEジャック・ウェルチ氏の「自分の運命は自分でコントロールすべきだ。さもないと、誰かにコントロールされてしまう」という言葉も思い出した。

 人生100年時代、筆者にとって、もっと高みを目指す勇気を得た一日であった。

コンフォートゾーンから意識的に抜け出す勇気が成長につながる


(1)コンフォート・ゾーンとは、自分が緊張や不安を感じることなく自然に行動できる範囲のこと。人はコンフォート・ゾーンに納まるように、無意識のレベルで自己制御機能を働かせている。このコンフォート・ゾーンの存在が人の潜在能力を解き放つ足かせになり、それに制約されている限り、その範囲でしか能力を発揮できない。(「まずは親を超えなさい!」 苫米地英人著(フォレスト出版))

古賀 雅之

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