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世代別投票率が左右する日本の社会保障

=高齢者比率が30%を超える「2025年問題」=

2019年07月03日

社会・生活

研究員
大塚 哲雄

 今日から明日へと日付が変わる午前0時。シャワーを終えてソファーに座り、一日の疲れを癒していた。すると突然、勝手口から「ドン、ドン、ドンドン」と激しい音が聞こえ、一瞬にしてくつろぎの時間は吹き飛んだ。一体、何が起こったのか。強盗が押し入って来たわけではない。もちろん幽霊の仕業でもない。昨年までわが家に時々起こった現象なのである。

 80歳を超え、数年前から認知症を患う母。同じ敷地内に住んでおり、夜中に「あんたの家にお父さん行っていない?」と確認しに来ていたのである。だが、父は来ていない。なぜなら3年前に他界しているのだ。今は母が介護施設に入り、この怪奇現象は起こらなくなったが...

 わが家に限らず、高齢化は社会全体にとって切実な難題である。「社会保障費の増大」のほか、最近は「高齢者ドライバーの事故」が連日、ニュースとして報じられている。このままいくと、将来の日本はどうなってしまうのだろうか。

 現在の日本では高齢者を65歳以上と定義しており、2025年には全人口に占める高齢者の比率が30%を超えて3677万人になると予想されている(平成30年版高齢社会白書)。また同時に、団塊の世代が全員後期高齢者の仲間入りするため、75歳以上が2180万人に達して全体の18%を占める。この「2025年問題」が現実のものになるまで、あと6年しかない。

 それでは高齢者比率が高まると、具体的にはどんな問題が生じるのだろうか。その最大の問題が年金・医療・介護を柱とする社会保障費の増大である。その額は1990年度の47.4兆円から2018年度には121.3兆円に達し、平成の間に約2.5倍に膨れ上がった(財務省「社会保障費について」)。さらに2025年に145兆円、2040年には190兆円まで膨張すると予想される。

 社会保障費のうち、医療費は2018年の39.2兆円から2025年には47.8兆円まで拡大が見込まれ、その抑制は喫緊の政策課題である。医療費の増大にはさまざまな要因があり、中でも厚生労働省は疾病の約30%が生活習慣に由来すると分析する。だから、国も自治体も企業も生活習慣の改善を声高に叫んでいるのだ。

 冒頭で母の認知症をとり上げたように、これもまた深刻な社会問題である。厚生労働省によると、2025年には高齢者の5人に1人が認知症を患うと予測される。認知症も生活習慣の改善によって予防可能という研究成果が報告されている。

 そして、参院選前に急浮上した「老後2000万円」問題。公的年金だけでは老後資金が2000万円不足するとした金融庁審議会の報告書が、政争の具となった。

 この年金については、高齢者とそれを支える現役世代の比率が過去半世紀で大きく変化した。財務省「社会保障の維持・充実」によると、1965年は高齢者1人を現役世代9.1人が支え、「胴上げ型」といわれていた。ところが、2005年になると高齢者1人を現役世代3人が支える「騎馬戦型」、さらに2050年には1人が1人を支える「肩車型」になると予測される。だから、年金制度の持続性に疑問符が付けられるわけだ。

 このように医療も年金も制度疲労を起こしている。改革が必要なことは言うまでもないが、その実現は並大抵ではない。例えば、前回衆院選(2017年10月)の年代別投票率をみると、60代、70代以上の投票率はそれぞれ72.04%、60.94%。これに対し、10代が40.49%、20代は33.85%、30代は44.75%にとどまる。

 この投票率に各年代の人口を掛け算し、それが全体に占める比率を出すと、実に60代以上が46.13%になる。一方、10代、20代、30代を合計しても20.53%に過ぎない。政治家からすると、票の多い高齢世代に手厚い施策を打ち出したくなる「数字」である。結果、若者や子育て世代への対策は後回しにされがちだった。

 実際、2018年度は医療費39.2兆円、介護他25.3兆円といった高齢者向け予算に対し、子育て関連予算は3.1兆円にとどまる。2013年の経済協力開発機構(OECD)の資料によると、日本の子育て関連予算はGDP比で1.49%。これに対し、フランスは3.65%、ドイツは3.03%と日本の2倍以上である。

 つまり現代の日本では、出生率の引き上げが喫緊の政策課題であっても、国・地方の予算配分は高齢者に重点が置かれがちになる。しかし、未来を考えれば、もっと人生の前半に対して予算措置を手厚くすべきではないだろうか。

20190711c.JPG加速する少子高齢化(イメージ写真=沖縄県・久米島)
(写真)中野哲也 RICOH GRⅢ

大塚 哲雄

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