2015年04月01日
社会・生活
HeadLine 副編集長
花原 啓
「おもちゃの語源は『もちゃそび(持ち遊び=手に持って遊ぶ)』とされ、『手』とは切っても切れない関係にある」―。こう語るのは、認定NPO法人日本グッド・トイ委員会でおもちゃコンサルタントを育成する岡田哲也さん。東京おもちゃ美術館(新宿区四谷)のディレクターも務める。おもちゃを使った遊びの研究を行うかたわら、年間約60本のワークショップやパフォーマンスを通じ、おもちゃ文化を広める「伝道師」として活躍している。
岡田さんは「私達の手には、ものすごい数の優秀なセンサーが備わっています。例えば、触っただけで、柔らかいのか固いのか、冷たいのか熱いのか、凸凹があるのか無いのか―を瞬時に判断できます」と指摘する。その上で、「手を使う行為を表す言葉って沢山ありますよね。『握る』『ねじる』『回す』...。複雑な動きをする能力が備わっているわけです。ロボットには真似できない、素晴らしい機能が人間の手にあるんです」―
しかし、ハイテク化が進むと、人間は指一本で機器を操り、多くの用事をこなせるようになった。無論、おもちゃ業界も無縁ではいられない。岡田さんは「手の活動をおろそかにしていると、日常生活に跳ね返ってくる。館内のままごと部屋にある流し台では、蛇口の下に子どもが手を差し出し、水が出るのをじっと待っているんです」という。
子どもの鉛筆の持ち方にも、ある異変が見られる。「三本の指を思うように動かせず、奇妙な持ち方が増えている。また、絵筆でちょっとだけ塗ることができず、太いマジックのようなベタ塗りしかできない子もいる」―。「こうした基本的な動作は、自力で習得するもの。そのためには、幼少期から遊びの中で手をフル稼働させなくてはならない。その加減や複雑さを教えてくれるのが、おもちゃの良さなんです」―
岡田さんはおもちゃを「人と人とのコミュニケーションを豊かにする生活道具」と位置付けている。「いくら優れたおもちゃを子どもに与えたとしても、大人の関わりなくして、子どもがスクスク育つことはあり得ない」―。おもちゃ美術館は「おもちゃの力」を最大限に引き出すため、子どもに自由な発想を促す「大人の遊び力」を重視する。「おもちゃ学芸員」と呼ばれるボランティアに聞けば、一つのおもちゃに色んな遊び方があることを教えてくれる。
「本来、遊びは自由でなくてはならない」―。例えば、積み木を崩すのも大事な遊びの一つである。岡田さんは「お父さんが積んであげて怪獣役の子どもが壊す。崩れる時の音とか散らばった後の爽快感、そして何度もお父さんが積み直してくれる安心感...。それだけで子どもの心は満たされるんです」と強調する。
どんな積み方でもいいし、壊す方が楽しくても構わない。大切なのは、大人がその子をしっかり見ること。「何に興味を持っているのか」「何を心地よいと感じるのか」を観察しながら、「これだ!」と思ったおもちゃで一緒に遊んでみる。その際、「対象年齢に縛られすぎる必要はない」という。
岡田さんは、おもちゃを使い、大人と子どもが知恵比べをするよう勧める。「子どもはたまに想像もつかないことをするじゃないですか。そんな時、小さな発見を一緒に喜ぶ心の余裕が大人には必要なんです。一つのおもちゃで遊びを何倍も楽しむ方法はいくらでもあります」―
花原 啓