2024年08月08日
社会・生活
研究員
芳賀 裕理
同じ時代に生まれ育った人々は、社会・経済情勢、流行・文化、世相などを反映したある種の共通意識、同じような考え方を共有するのではないか。世代論と言われる分析で、近年、X世代やY世代、Z世代、さらにはα世代といった形でしばしば語られる。が、そもそもどんな意味を持つのだろうか。世相に影響されない個人の信条や生き方がもちろんあるが、社会を読み解くための一つの助けとして、世代論の歴史や背景などについて考えてみた。
X世代の語源は、スペイン内戦を取材した著名カメラマン、ロバート・キャパが1951年に出版したフォトエッセー「Generation X」とされる。テーマは第二次世界大戦後の混乱を生きる若者たちだった。「未知の世代」という意味が込められていたが、90年代に出版された小説「ジェネレーションX-加速された文化のための物語たち」(ダグラス・クープランド著)がベストセラーになると、「X世代」という表現が世界的に広がった。
名称 | 誕生年(現在年齢) | 特徴 |
X世代 |
1965~79年頃(59~45歳) |
能動的、消費旺盛でブランド品好む |
Y世代 |
1980~95年頃(44~29歳) |
不況を懸念、プライベート重視、 |
Z世代 |
1996~2012年頃(28~12歳) |
多様性を重視、デジタルネイティブ |
α世代 |
2013年~(11歳以下) |
??? |
「X世代~α世代」の特徴=世代の境界年には諸説あり(出所)各種報道
元々は「未知の世代」だったものの、現在のX世代は既に59~45歳。1980~94年に15歳を迎えた層にあたる。この時期は、社会学者エズラ・ヴォーゲルが戦後日本の高度経済成長の要因を分析した「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が注目され、日本経済が絶頂期を迎えていた時代と記憶されている。彼らは好景気の時代に高校・大学の多感な時期を過ごし、社会に出た。消費活動に積極的でブランド品を好む傾向もみられる。
1985年のプラザ合意をきっかけに始まったバブル経済を経験し、「バブル世代」とも呼ばれる。この時期、栄養ドリンクのCMがビジネスマンをあおる「24時間戦えますか」というキャッチコピーがテレビに流れていた。長時間労働が普通で、仕事関係の懇親会や飲食接待など勤務時間外の交流も当たり前の時代だった。前向きで能動的な性格の人が多いと言われている。
1991年には芝浦に巨大ディスコ「ジュリアナ東京」がオープン。景気は下り坂に入っていたが、ボディコンファッションの女性が羽根付き扇子を振り回し、高さ約130cmの「お立ち台」で踊るため場所取りをする時代だった。X世代は好景気をおう歌し、将来を楽観視する目立ちたがり屋が多い世代だったと言えるかもしれない。
X世代は今、社会の中核を成しているのだが、その後のY世代は現在44~29歳。この層は、1991年のバブル崩壊を受けて株価・地価が急落、有効求人倍率が1.0を下回るといった時代に10代から20代を過ごした。就職氷河期は2005年12月まで13年間続いた。
「ミレニアル世代」とも言われ、経済が回復すると思われた矢先の2008年にはリーマンショックが起きた。厳しい就職活動を乗り越えたY世代は、仕事のありがたさを実感し、真面目に業務に取り組む傾向にある。その一方で、再び不況に見舞われるのではないかとの懸念も抱え、好不況に左右されないプライベートな時間を大切にする面もしばしばみられるという。
またY世代はインターネットの普及、デジタル化の急速な進展を経験。1995年にマイクロソフトが基本ソフト「Microsoft Windows 95」を発売すると使い勝手がよくなったPCが一気に消費者に広がった。96年には「Yahoo! JAPAN」日本語版がサービスを開始。この時期、携帯電話の利用が当たり前になり、99年にNTTドコモが携帯電話のインターネット接続サービス「iモード」、2000年に「Google」が日本語の検索サービスを開始している。
Y世代はパソコンや携帯電話、その後のスマートフォンなどのIT製品が急速に一般化するのを経験したが、X世代と共にリアルなコミュニケーションや物質的な豊かさにもこだわりがあるとされる。その一例が「オタク」だろうか。
その後のZ世代は現在28~12歳。スマホなど情報通信機器が当たり前になった中で育った。「デジタルネイティブ世代」「ポストミレニアル世代」ともいわれ、情報リテラシーに優れ、IT製品の利用やネットを使った情報収集に抵抗がない。
日本では2000年代後半にフェイスブック、ツイッター(現X)のサービスが始まるなどし、「SNS」を通じて世界中の人々とリアルタイムで情報を共有。11年には多くの若者がSNSを介して各国の民主化運動に共鳴し、中東諸国での「アラブの春」につながっている。
気候変動への政府の無策に関するグレタ・トゥーンベリ氏の抗議がSNSで拡散されると、世界で100万人以上の若者が共感し、行動した。いつでもどこでも誰とでもつながることのできるZ世代は多様性に対する意識が高く、寛容な面も身に着け、社会的な意義を重視する特徴がありそうだ。
その一方で、この世代は新型コロナウイルスの感染が拡大した当初、ステイホームを強いられ、高校・大学の授業や就職直後のキャリア形成はオンラインだった。このため、対面でのコミュニケーションを苦手とする傾向もみられるという。
世代がX、Y、Zと移り、これに続く11歳以下のα世代は今現在、そして「今後」に大きく左右されるのが間違いない。例えば、新しい学習指導要領に基づき、2020年度から小学校、21年度から中学校、22年度から高等学校でプログラミングや外国語、SDGs(国連の持続可能な開発目標)に関する教育などが拡充されたほか、これまで以上に「デジタル」が重視されている。
ビッグデータ活用や人工知能(AI)といった最新技術が社会に浸透する新たな状況の中で、従来とは全く異なるα世代が形作られていくのだろう。
現代社会は、異なる世代が積み重なる形で形成されている。個々の経験や環境は性格を形成する要素で、生きた時代の"空気"に触れ、感性や考え方が影響を受ける面は否めないだろう。こうした「世代」を意識しながら、仕事や生活でコミュニケーションをとってみてはどうだろうか。多様な考えを受け入れて不要なあつれきを生まず、寛容な生き方を実践する第一歩になるかもしれない。
芳賀 裕理