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「CQ、CQ、CQこちらJK1...」

=アマチュア無線免許の取得体験記=

2021年05月26日

社会・生活

企画室
帯川 崇

 コロナ禍以降、在宅時間が増えた。日々の仕事に追われ、走り続けてきた筆者には「新たなチャレンジをするまたとない機会」に思え、50歳目前に何かしらの資格取得に挑戦しようと考えた。早速、情報収集の「相棒」である近所の大型書店を訪れたところ、「アマチュア無線技士国家試験」の対策本が目に留まった。「ハム」と呼ばれるアマチュア無線だ。「そういえば、小学校時代にハムを楽しんでいた同級生がいたな」と思い出し、懐かしさと相まって興味が湧いてきた。

 今や日常生活に欠かせなくなり、社会インフラとなったスマートフォン。これはサーバーやケーブルといった携帯電話会社の通信網を介するため、有線通信に分類される。便利な半面、停電などでサーバーがダウンすると、スマホは使えなくなる。

 これに対し、アマチュア無線は文字通り無線通信。通信網が要らないため、無線機さえあれば相互に通信が可能だ。携帯電話に不可欠な中継アンテナや基地局も要らないため、アマチュア無線は災害時に圧倒的な強みを発揮する。たとえ停電が起きたとしても、とりあえず無線機は内蔵バッテリーで使用できる。もしバッテリーが切れても、自家用車のバッテリーで充電も可能。実際、過去の大災害においても、各種連絡や情報収集、救援要請などで活躍している。

 調べてみると、一口にアマチュア無線と言っても、その世界が実に広いことが分かった。ドローンレースにおける高速映像伝送といった最先端技術が存在する一方で、150年以上前の技術であるモールス信号もいまだに健在なのだ。趣味としてのモールス信号は今、集中力向上やボケ防止への有効性が注目されているという。信号の意味を覚えることや、聞き取ること、打つことが脳を活性化させるのかもしれない。

 また、アマチュア無線は発信電波の出力や周波数、使用するアンテナ、周囲の見晴らし状況などに応じて、電波の届く範囲が大きく変わってくる。遠くまで届くからと言って、いきなり大きなアンテナを用意することは場所や費用の面からハードルが高い。そこで筆者はまず、手軽なハンディタイプの無線機を使った音声通信からスタートすることにした。

 ただし、そのためには「免許」を取得しなくてはならない。「無線従事者免許」と「無線局免許状」の2つが必要になる。従事者免許には4級から最上位の1級まであり、受験者の9割以上を占める4級と3級の場合、いきなり国家試験を受けるか、あるいは養成課程(講習会またはeラーニング)で修了試験を受けてもよい。

 筆者は時間的な自由度の高い養成課程を選び、モールス信号を扱える3級にチャレンジすることにした。また、マイペースで在宅学習が可能なことから、講習会ではなくeラーニングを選択した。早速、自宅のパソコンと郵送されてきたテキストを使い、受験勉強をスタート。eラーニングには不安があったが、過去の講習会の動画を視聴することもでき、安心して楽しく取り組めた。

 eラーニング終了後、最寄りのテストセンターで修了試験を受けた。後日、メールで合格通知が届いた後、従事者免許が郵送されてきた。次のステップが無線局免許状の取得。これは必要事項を書いて申請するだけ。ここまで約2カ月と約3万円を掛け、晴れて2つの「免許」を取得。別途、無線機には約7万円を投じた。

 2021年4月半ば、記念すべき初交信に成功。「CQ、CQ、CQこちらJK1...」と呼び掛けると、隣接する市に住む男性から「ファイブ(5)ナイン(9)」という返答があった。「よく聞こえてますよ」という意味の専門用語である。緊張感から解き放たれると同時に、初めて携帯電話で話した30年近く前の感動がよみがえった。

 かくしてアマチュア無線が趣味の1つになった。だが残念ながら、国内のアマチュア無線人口は大きく減少しているのが実情だ。ピーク時の1994年に136万局を超えたアマチュア無線局の数は、現在は40万局を下回るまで減少している。スマホの爆発的な普及を考えると時代の趨勢のように感じられるが、インターネット上では「電波を出せるようになるまでの一連の手続きが面倒」「5年ごとに更新を求められる無線局免許状は何とかならないか」といった制度や規制に対する不満が散見される。

 恐らくこうした声を受け、所管する総務省は2021年3月、アマチュア無線を社会貢献活動で広く活用できるようにするための制度改正を発表した。東日本大震災から10年の節目ということもあり、「災害ボランティアでの活用」や「ボランティア活動・地域活動での活用」が打ち出されたのだ。これまで前者は携帯電話などの有線通信が途絶する間だけ許可されていた。だが今回の改正により、事前訓練から災害復旧時の支援活動に至るまで許可範囲が大幅に広がったことになる。

 また、後者の具体的なケースとしては、マラソン大会・体育大会、祭り、地域の清掃・観光案内、消防団活動、有害鳥獣対策などが挙げられている。いずれも従来は全く認められていなかったものばかり。そういう意味では画期的な改正といえよう。アマチュア無線に地域活性化という重要な機能が加わったわけだ。いつの日か、筆者も無線機片手にボランティア活動に参加したい。そうなると、趣味の域を超えて生きがいに変わるのではないかと秘かに期待している。

写真自宅ベランダで無線機片手に交信中の筆者
(写真)帯川孝子

帯川 崇

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