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サッカーW杯、4年に1度の興奮・熱狂の祭典

=五輪上回るテレビ視聴者と参加国の数=

2022年03月08日

社会・生活

研究員
館山 歩

 世界最大のスポーツイベント、それはサッカーのワールドカップだ(以下「W杯」)。テレビなどでの視聴者数や予選参加国の数ではオリンピックをしのぐ。4年に1度の祭典であり、2022年11月には第22回 W杯カタール大会が開催。世界中のサッカーファンが興奮と熱狂に包まれ、睡眠不足の日々が続くだろう。本コラム公開時点では、日本代表は本戦出場権をまだ獲得できていない。だが必ずや最終予選を突破し、7回連続7度目の本戦出場を果たすと信じている。

写真世界が熱狂するサッカーW杯(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

「空飛ぶオランダ人」に憧れた少年時代

 筆者がW杯を知ったのは小学6年の夏。当時所属していた少年サッカーチームの夏合宿で夕食後のミーティングが開かれ、第10回西ドイツ大会(1974年)決勝戦のフィルムが上映されたのだ。それまで海外はおろか、日本の社会人リーグの試合すら見たことなかったが、超一流選手の「神業」やスピーディーな試合展開にすっかり魅了された。

 優勝した西ドイツは「皇帝」と称された主将フランツ・ベッケンバウアーが率い、「爆撃機」ゲルト・ミュラーが得点を重ねた。一方、準優勝のオランダは現代に通じる「全員攻撃・全員守備=トータルフットボール」という新しい戦術を生み出していた。中でも筆者が憧れた「空飛ぶオランダ人」主将ヨハン・クライフは、サッカー界に革命を起こすほどの衝撃を世界に与えた。

 こうした世界のスーパースターの存在を知り、筆者はサッカーというスポーツの面白さや魅力を初めて知った。それまでしばしば練習をサボり、ゲームセンターで時間をつぶすという不真面目な選手だった。

 だが、W杯に刺激を受けて猛反省。夏合宿後に選抜チームに抜擢されたこともあり、「クライフのようなドリブルができるようになりたい」と願い、練習にも熱が入るようになった。結局、高校2年の終わりにケガをしてしまい、ドクターストップ。プレーは断念したが、4年に1度のW杯を毎回待ちわびてはテレビ観戦を楽しんできた。

前回大会で日本代表は無念の惜敗

 第1回W杯は、1930年に南米ウルグアイで開かれた。中南米9カ国に欧州からの4カ国を加えた13カ国で争われ、開催国ウルグアイが初代王者に輝く。ファシズムの台頭や戦争の暗い影が忍び寄る中でも1934年にイタリア、1938年にはフランスで開催されたが、第二次大戦勃発により中断を余儀なくされた。そして戦後の1950年、ブラジルで12年ぶりに第4回大会が開かれ、以降は4年ごとに途切れることなく開催されている。

 筆者がW杯を初めてリアルタイムでテレビ観戦したのは、1978年の第11回アルゼンチン大会にさかのぼる。深夜に生放送された決勝戦。延長戦の末、開催国アルゼンチンが3対1でオランダを破って初優勝。テレビ画面の中で、延々と紙吹雪がキラキラ舞い続けたシーンを忘れられない。

 日本代表が悲願の初出場を果たしたのが、1998年の第16回フランス大会。「まさか日本がW杯本戦に出場する日が来るなんて...」―。子どもの頃には想像すらできなかった快挙だった。2002年の第17回大会は日韓共催。日本代表が初めてグループリーグを突破し、決勝トーナメントに進出。その後、日本代表の目標はW杯出場から、決勝トーナメントを勝ち上がることに変わっていく。

 そしてまだ記憶に新しい、2018年第21回ロシア大会。決勝トーナメント初戦で日本代表は強豪ベルギーと8強進出を懸けて激突した。後半20分過ぎまで日本が2対0でリードする展開。ただ、ここからFIFA(国際サッカー連盟)ランキング3位(当時)のベルギーが牙を剥く。後半24分、29分と立て続けに得点し、アディショナルタイムに決勝ゴール。日本代表は2対3で無念の惜敗を喫した。優勝候補の一角をあと一歩のところまで追いつめたこの試合は、世界から「大会ベストマッチの1つだった」と評された。

 前回、初めてW杯のホスト国となったロシアだが、カタール大会では本選出場への道が閉ざされる見通し。同国のウクライナ侵攻という政治が、スポーツの祭典に暗い影を落とす。

W杯のテレビ視聴者数は五輪をしのぐ

 このロシア大会の本戦には32カ国が、予選には210の国・地域が参加した。現在、サッカーW杯、オリンピック、そしてラグビーW杯が世界の3大スポーツイベントと呼ばれるが、その規模を比較したのが下表だ。サッカーW杯が他の2つを大きく引き離していることが分かる。

3大イベント比較
20220304_02A.png(注)2020年東京夏季オリンピックはコロナ禍により、原則無観客開催。
このため、2016年リオデジャネイロ夏季オリンピックを比較対象とした。
(出所)各種報道などを基に筆者

高騰する放映権料、ロシア大会は約600億円

 この表でとりわけ目を引くのがテレビ放映権料。スポンサー料とともに、W杯の2大資金源である。2018年のロシア大会で日本側が大手広告代理店を介し、FIFAに支払った放映権料は約600億円。2016年リオデジャネイロ夏季オリンピックの275億円に比べると、2倍以上になる。オリンピックにはさまざまな競技・種目があり、複数会場で連日同時に行われる。当然、テレビ中継の番組数も延べ数百本に上る。

 これに対してW杯は1試合ずつしか放送されず、試合数も大会通して64試合。つまり放送回数に大差があるのに、視聴者数の累計で見るとW杯はオリンピックの5倍もの視聴者を獲得しているのだ。

 ここで懸念されるのが、W杯の放映権料である。「高騰するワールドカップ放映権料 なぜ高くなっているのか徹底解説!(スポーツビジネス専門メディア「HALF TIMEマガジン」)によると、「ワールドカップロシア大会で、(注)JCがFIFAに支払ったのは約600億円。日本で初めてワールドカップが放映された時の放映権は8000万円でした。それに比べると、750倍もの金額になったといえます。」という。(日本で初めて放映されたのは1970年メキシコ大会)

(注)JC:NHKと民放の作る共同制作機構

 この価格高騰の動きには、今後ますます拍車がかかりそうだ。2026年大会(カナダ、メキシコ、アメリカの3か国共同開催)から出場国は48カ国に増えるからだ。

サッカーが今後も愛されるためには...

 サッカーの競技人口は全世界で約2.6億人。約4.5億人のバスケットボールなどと並び、世界で最も愛されているスポーツの一つだ。「では、なぜこれほどまでにサッカーは世界に広まったのだろうか。」

 「ワールドサッカー歴史年表」(サッカー批評編集部、カンゼン、2008年)はその理由について、「やはり、一番の理由はボール1つあればすぐに始められる手軽さだろう。場所も道具も選ばないスポーツだからこそ、決して豊かとはいえない国々にも広まっていったのだ」と指摘する。

 さらに同書は「また丸いボールを足で扱い相手のゴールに入れれば1点という、単純明快で分かりやすいルールだったことも忘れてはならない。その証拠に、100年以上前に制定された基本ルールは現在もほとんど変わっていない。そして、おそらく100年後も変わらないはずだ」と指摘する。

20220304_03A.png(出所)版元ドットコム

 サッカーは今後も世界中で愛され、競技人口を拡大しながら、スーパースターを輩出していけるだろうか。そのためには、海外一流選手のテクニックとスピード、迫力にあふれる試合を、未来を担う子どもたちにテレビなどで見てもらうことが大切だ。

 テレビ放映権料が高騰する半面、ネット配信メディアが台頭する。もし、ごく限られた一部の人だけが、有料メディアでしかW杯を観戦できない時代が来るとしたら、それは大変残念なことだ。今後も世界中のだれもが興奮と熱狂に包まれるイベントであり続けてほしい。

写真サッカーが愛され続けるためには...(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

館山 歩

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