2022年10月20日
社会・生活
研究員
斎藤 俊
皆さんは「麻雀(マージャン)」と聞いて何を思い浮かべるだろう。深夜、タバコの煙が充満する部屋で、怖い顔をした男たちが金を賭け、卓を囲む...。そんな怪しげな風景が思い浮かんだ人も多いのではないだろうか。若い人なら「昭和の遊び」と言うかもしれない。
そうした不健康で古臭いイメージが先行するせいか、麻雀を打つ人は減り続けてきた。日本生産性本部の「レジャー白書2021」によると、2009年度以降の競技人口は減少の一途をたどっている。ところがここにきて、その麻雀界が久しぶりに盛り上がりを見せているという。何が起きているのだろう。
そもそも若い人は麻雀になじみがないかもしれないので、ルールを簡単に説明しておこう。中国発祥のテーブルゲームで、一般には4人で遊ぶ。文字や絵が書かれた「牌(パイ)」で特定の組み合わせを作り、その組み合わせに応じて点数を得る。手札によって役が決まるトランプのポーカーを複雑にしたイメージだ。
麻雀(イメージ)
(写真)筆者
麻雀の競技人口
(出所)日本生産性本部「レジャー白書」を基に筆者
麻雀は、戦後の日本では比較的メジャーなゲームだった。特に学生の間では定番の娯楽で、社会に出てからも取引先や同僚らと仕事帰りに卓を囲む例は少なくなかった。ゴルフのように、仲間と親睦を深める手段でもあったわけだ。
それだけなら良かったのだが、当時の麻雀に不健康な側面があったのも事実だ。まず、お金を賭けるケースが圧倒的に多かった。さらに冒頭のイメージ通り、酒を飲み、タバコを吸いながら徹夜で打つ、身体にも悪い遊び方が一般的だったのだ。コンプライアンス(法令遵守)や健康志向が広がるにつれ人気が低下していったのは当然とも言える。
風向きが変わり始めたのは、そうした負のイメージを変える「健康麻将(けんこうマージャン)」という考え方が生まれてからだ。「飲まない」「吸わない」「賭けない」を合言葉に、文字通り健康的に麻雀を楽しもうという動きである。あえて「麻雀」ではなく「麻将」という古い中国語表記を使うことで、「賭博ではない、将棋や囲碁のような遊び」というニュアンスを込めている。この健康麻将は高齢者を中心に、仲間作りや頭の体操などを目的に広がった。
そうした中で「ノーレート雀荘」と呼ばれる新しいタイプの雀荘も登場した。雀荘とは麻雀する場を提供するお店のこと。古いタイプの雀荘と違い、お金を賭けず真剣勝負がしたい若者や女性をターゲットとしたのが特徴だ。大会やイベントが企画されることもあり、健康麻将とは異なる層にも支持を広げている。
インターネット麻雀も人気の復活に一役買った。麻雀を楽しむには原則として4人の「面子(メンツ)」を集める必要がある。麻雀人口が減るにつれ、遊ぶ相手を見つけるのが難しくなっていた。インターネットの普及が、この悩みを解決したのだ。2006年に「天鳳」、2019年に「雀魂(じゃんたま)」などさまざまな場が提供されるようになり、いつでもどこでも手軽にゲームができるようになった。
とはいえ、冒頭で見たように競技人口の減少に歯止めがかかったわけではない。では、なぜここにきて盛り上がっているのか。実は競技を「する人」ではなく、試合を「見る人」が急増しているのだ。
麻雀にも囲碁や将棋のようにプロがいる。「日本プロ麻雀連盟」「日本プロ麻雀協会」「最高位戦日本プロ麻雀協会」「麻将連合」「RMU」のいずれかに所属しており、2022年4月時点でおよそ3000人。かく言う筆者も、日本プロ麻雀協会所属のプロである。プロになるには単に麻雀の実力だけでなく、関連する知識教養が必要で、団体ごとに厳しい入会試験や審査などが課される。
2018年、そんな麻雀プロ業界に「Mリーグ」設立という大きな転機が訪れた。Mリーグとは各プロ団体に横串を刺した形のチーム対抗戦ナショナルリーグ。サイバーエージェントの藤田晋社長の主導で発足した。ゲーム会社コナミアミューズメントなど8企業のクラブチームがあり、約30人の選手が契約している。
チームは3人か4人で男女混成。プロ野球のように選手はドラフトで選出される。麻雀の実力を重視したチームだけでなく、女性中心、タレント性重視などさまざまなコンセプトに基づいた人選がされている。
Mリーグでは4チームから1人ずつ選手を出して試合をする。1シーズンで各チーム94試合を戦い、チームメンバーのスコアを合算して順位を決める。最終的には上位4チームがファイナルシリーズを16試合行い、優勝チームが決まる。
2年連続でファイナルシリーズに進出できなかったチームは、1人以上が契約更新できないルール。このため毎年数人が退団したり、移籍したり、新しい契約選手が誕生したりする。
Mリーグ発足前も、タイトル戦の決勝やトップリーグはユーチューブやニコニコ生放送が対局を中継していたが、視聴者は多くて数万人規模だった。一方、MリーグはAbemaTVが運営するネットテレビ「ABEMA(アベマ)」が中継。初心者やルールを知らない層をターゲットにした分かりやすい実況解説を導入したことで視聴者が爆発的に増えた。2021年度の開幕戦では150万人、他のレギュラーシーズン平均で100万人が視聴したとされる。
このMリーグが火付け役となり「麻雀は打たないが見るのは好き」という通称「見る雀(みるじゃん)」という新しいジャンルが誕生した。Mリーグの調査から推計すると「見る雀」人口は約250万人となり、最近の競技人口の減少を上回る。2020年以降も視聴者は増えているとみられ、新しい市場になりつつある。
麻雀との関わり方
(注)アンケートの調査対象は15~79歳の男女
(出所)Mリーグ機構を基に筆者
今年もMリーグの新シーズンが10月3日に開幕した。最近は選手のタレント性より麻雀の実力を重視したチームが増えており、今シーズンもハイレベルの対局が見られそうだ。麻雀からしばらく遠ざかっていた人も、これから始めてみようという人も、この秋、「見る雀」してみてはいかがだろう。
斎藤 俊