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子供2人を育てるのが理想だが

 今の政策では「1人が精いっぱい」

2023年08月03日

社会・生活

研究員
木下 紗江

 こども園に通う子供が増えている。保育所や幼稚園に通う子供が年々減少しているのとは対照的だ。こども園はさまざまな職業の親の子供が幼い頃から一緒に過ごし、多様性を肌感覚で知るプラス面も利用者増加の背景にありそう。また、夫婦が育てたいと思う理想の子供の数は平均2.25人。これに対して合計特殊出生率は1.26人と半分程度しかない。「理想は2人以上育てたいと思っている」けれども、「子供を1人育てるのが精いっぱいだ」と子育て世帯が感じている。今年4月に育休を終え復職した経験を踏まえて、子育て世帯が「大変だ」と感じる保育環境や政府支援策の現状について考えてみた。

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理想の子供の数と合計特殊出生率(出所)国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」、厚生労働省「人口動態調査」を基に作成


減少する保育所・幼稚園

 日本の就学前児童のうち保育所を利用するのは2022年4月時点で205万人。次いでこども園が150万人、幼稚園が92万人。最も多くの就学前児童が過ごす保育所では、共働き世帯や親が病気を抱える世帯、親が就学中の世帯などの子供たちが一緒に過ごす。

図表

保育所・幼稚園・こども園に通う児童数(出所)文部科学省「学校基本調査」、厚生労働省「保育所等関連状況取りまとめ」を基に作成

 一方、幼稚園に通うのは、ほとんどが専業主婦(専業主夫を含む、以下同)世帯の子供たちだ。このように日本では親の就労の有無やライフスタイルによって子供が過ごす環境が違う。そうした中で2015年に入ると保育所や幼稚園を利用する子供の数が減り始めた。代わりに人気を得たのがこども園だ。こども園は、親が働いているかどうかに関係なく子供を預かる。少子化や核家族化が進む日本で、そういう施設が欲しいという子育て世帯からの要望を受けて06年に創設された。その後、15年に施行された子ども・子育て支援新制度によって、認可・指導監督が一本化されるなどしてこども園の整備が進んだ。今やこども園に通う子供の数は5年前に比べて2倍に増え、幼稚園児よりも多い。

多様性の中で育つ

 こども園が選ばれる理由について、「多様な友達と出会うことで、思いやりや自制心、忍耐力、社会性といった生きる力が育まれる」と話すのは、一般社団法人全国認定こども園連絡協議会の戸巻聖会長だ。戸巻会長は子ども・子育て支援新制度の施行時に同協議会の事務局長として走り回った経験を持つが、認定こども園の創設時から多様性の中で育つ重要性について、いち早く全国に呼びかけていた。

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インタビューに答える戸巻聖会長【7月6日、千葉県柏市】

 こども園には幼稚園のように午後2時に帰る子もいれば、預かり保育を利用して3時、4時に帰る子もいる。一方、保育所と同様に6時まで過ごす子もいる。言ってみれば、こども園には「定型がない」。このため、「子供たちなりに考えなければいけない場面も多くあるけれど、でもそれは良いこと」だと戸巻会長は語る。例えば2時に帰る子は、周りが遊んでいる中でもお迎えの時間が近づいたら自分の荷物をまとめて帰り支度をする。夕方までこども園で過ごす子は、仲良しの友達が先に帰ってしまった時に寂しい気持ちを抱えながらその後の時間をどのように過ごすのか子供なりに考えて過ごす。多様性のある環境だからこそ、自制心や忍耐力が自然と身に付くのではないか。

子供を諦める理由

 多様な背景を持つ友達と過ごす中では学ぶ機会も多い。さまざまな場面で子供は自分の思いに気付き、一生懸命自分の考えを言葉にしようとする。そうして良くも悪くも反応が返ってくることで相手の思いに触れ、理解するようになる。この積み重ねにより思いやりが芽生え、子供は自分なりのコミュニケーションのとり方を身に付けていくのだと思う。多様な価値観に触れるという点でいえば、こども園は先生の数が多いことも見逃せない。

 幼稚園には各クラスに担任が1人いるだけだが、保育所機能を持つこども園では0歳児は子供3人に1人、1歳と2歳は6人に1人の先生がいる。そのため、こども園には必然的に先生の数が多くなる。戸巻会長は「たくさんの大人(先生や職員)と触れ合う機会は子供の安心感につながる」と指摘する。実際、園長室に向かって元気な声で話しかけてくる子供たちが絶えない。

 日本政府の子育て施策はこれまで親の多様な働き方やライフスタイルに対応する形で整備されてきた。それでも少子化に歯止めはかかっていない。国立社会保障・人口問題研究所によると、子供を2人または3人産むのを諦める理由について、2人に1人が「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」を挙げ、4人に1人が「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられないから」と感じているという。

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理想の数の子どもを持たない理由(出所)国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」

子育て2人の大変さ

 子供を産むと1年ほどはまとまった睡眠が取れなくなる。赤ちゃんに2~3時間おきに母乳やミルクを与え、その合間におむつを替え、着替えをさせ、さらにお風呂にも入れる。頻繁に泣く赤ちゃんをそのたびに抱いてあやし、衣類を脱ぎ着させての体温調節も欠かせない。このような子育ての合間に母親は、自分の食事を用意して片づけを済ませ、さっとお風呂に入る。

 では、子供が2人または3人になると、どうなるのか。

 私が2人目を出産したばかりの時、しばらくは日々の生活はおろか歩くことさえままならなかった。当然そのような状況では第1子を保育所に送迎できない。そのため、ある程度体調が回復するまで子供2人と1日中自宅で過ごすことになる。

 そうなると、睡眠不足の中で赤ちゃんの世話をしながら、自分用と第1子用の食事を毎日3回用意する。第1子の年齢によっては食事の介助やこぼした食事の後片付けをする。衣類は赤ちゃん用と大人用を分けて洗い、第1子がトイレのトレーニング中の場合はおもらしした洋服やシーツを予洗いする。そして一緒に遊び、散らかったおもちゃを片づける。

 体が少し動かせるようになり、第1子を保育所や幼稚園に送迎できるようになっても、すべてを母親だけでこなすのは負担が大きい。夫が育休を取らなければ2人目の出産は難しいのが実情だと思う。

保育所の申し込みができない

 保育所の利用にも制約が多い。共働き世帯の母親が第2子の育休中に、他の家庭に優先度の高い待機児童がいる場合、第1子の保育所退所を求める自治体もある。また、保育所を利用できるのは、子供が入所するタイミングで復職が決まっている場合だけで、入所の数カ月前に申し込みができる。そのため、第1子の育休中に妊娠して復職せずに第2子の育休に入る、いわゆる年子の場合は第1子の保育所の申し込みがそもそもできない仕組みだ。

 昔のように祖父母がいつも近くにいて子育てを手伝ってくれる世帯は少ない。国勢調査によると、2020年の子育て世帯の9割は親と子供だけの核家族。祖父母などと同居する子育て世帯は1割に満たず、年々減少している。祖父母と同居はしていなくても近くに住んでいて育児のサポートをしてくれる世帯もあるだろう。国立社会保障・人口問題研究所によると、6割の親は第1子が3歳までに夫婦どちらかの親に子育てを手伝ってもらった経験がある。しかし、今の祖父母世代は仕事をしているケースも多いため近隣に住んでいても手伝ってもらう内容や頻度が制限されることも多い。

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子育て世帯数(出所)厚生労働省「2022年国民生活基礎調査」を基に作成

図表

第1子が3歳までに夫婦どちらかの親に子育てを手伝ってもらった経験を持つ世帯の割合(出所)国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査」を基に作成

 そもそも、自宅での子育てが避けられない場合がある。例えば、専業主婦世帯の子供は3歳にならないと、いずれの施設にも預けられない。

こども誰でも通園制度

 そこで、年子や専業主婦の世帯などにかかる自宅での育児負担を減らすため、政府は2024年度に「こども誰でも通園制度(仮称)」を創設する。この制度は、育休世帯だけでなく専業主婦世帯も保育所を月に一定期間利用できる。今年度からは、定員に空きのある保育所で毎週1~3日程度、定期的に子供を受け入れるモデル事業が全国31市区町で始まっている。モデル事業での効果検証を経て、政府は2024年度以降に制度化することを目指している。

 だが、こども誰でも通園制度(仮称)は、こども園や保育所に空きがない都心部ほど受け皿を確保しづらいといった課題がある。

 育休中の共働き世帯のなかには第1子を週3~4日程度保育所に預けたいと考える共働きの親がいるのも事実。この希望が実現すれば1~2日分の保育枠が空き、受け皿不足の緩和につながる。育休中の家庭が保育所を利用する頻度を柔軟に選べるような仕組みにしてはどうだろうか。

 しかし今の制度上、認可保育所では保育所を利用する日数を減らしても保育料は減額されない。自治体が独自に定めた基準を満たした認証保育所・認定保育所、または認可外保育所で、利用日数に応じた保育料を設定しているところもあるが、まれなケースだ。子育ての経済的な不安は大きい。子育て世帯の負担軽減を考えれば、利用日数に応じた保育料の設定も必要ではないか。

これからの社会にとって

 一方、保育士は一時的に預かる場合でも子供の顔や名前、心身の発達段階、アレルギーなどを把握する必要があり、負担が増す。安全管理のため一時保育の子供については専用クラスで対応している保育所もある。政府が異次元の少子化対策をうたうならば、子育てを支える保育士らが働く環境の改善も欠かせない。

 第2子を出産後、子供が保育所に行きたがらないことがよくある。これは「赤ちゃん返り」といって、お母さんと一緒にいたいという寂しさや甘えからくると言われている。なるべく子供の気持ちに寄り添って対応すると、親も一層疲弊していく。育休中の世帯の子供が保育所に行き渋った時、親が働いていない園児が当たり前のように一緒に過ごしていたら子供は「保育所は親が働いているあいだ過ごす場」とは感じないだろう。「赤ちゃん返り」を起こしにくくなり、保育所を利用している育休中の親にとっても助けとなる。

 こども園や「こども誰でも通園制度」はさまざまなバックグラウンドを持つ親の子供が通う。親のライフスタイルや働き方が多様ならば子育て世帯の事情も多様。子供の頃から多様性の中で育つ環境の整備は日本の少子化対策だけでなく、これからの社会にとって不可欠だ。

木下 紗江

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