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Z世代を迎える企業は変われるか

青田買い復活も、低い仕事への期待

2024年04月01日

社会・生活

客員主任研究員
松林 薫

 日経平均株価が2月22日、バブル期の1989年末につけた史上最高値(終値ベース)を更新した。実質賃金が上がっていないため、景気の良さを実感できる人は少ないかもしれない。しかし、新卒採用の現場では、まさにバブル期を思わせる青田買いが繰り広げられている。そんな中、「人余り」「リストラ」の時代に育った若者は、仕事への期待値が低いのは否めないが、今、人手不足が深刻化している。企業は将来を見据えて新人育成に力を入れ、学生の「期待」を高められるかどうかが問われているのではないか。

加熱する人材獲得合戦

 現在の大学3年生向けインターンシップが本格化したのは昨年の夏。秋には早くも内々定を出す企業が出てきた。年明け以降は不動産など採用人数が多い業界で人材獲得合戦が過熱している。

 厚生労働省によると昨年12月1日時点の内定率は86.0%だった。この勢いが続けば4月1日時点の内定率はバブル崩壊後で最も高かった98.0%に達するかもしれない。

大卒の就職内定率(出所)厚生労働省

冷めた就職観

 筆者は私立大学で学生の就職相談に乗っているので、こうした状況を間近に見ている。自分自身は1990年代の「氷河期」に就職活動をした世代なので、学生が志望先から内定をもらっているのを見るとわがことのようにうれしい。その反面、人員確保に躍起の企業と、冷めた就職観を持つ学生の意識のギャップを見るにつけ、不安を感じている。

 今の学生と話していて強く感じるのは、働くことに対する期待値の低さだ。仕事が自己実現や自分の生きがいにつながるとは信じていない印象を受ける。企業に対する目も冷めている。社員のために何かしてくれるとは思っておらず、単に「食べるために金を稼ぐ場」と割り切っている学生が多い。

「人のために仕事をしたい」が低下

 もちろん大学や学部によって学生のカラーは違うし、仕事に対する価値観も多様化している。「最近の学生は」とひとくくりに論じるのは乱暴だろう。ただ、筆者の印象はデータとも矛盾しない。

 マイナビが2023年4月に発表した24年卒大学生就職意識調査によると、あなたの「就職観に最も近いものはどれですか」との質問で最も多かった回答が「楽しく働きたい」で38.9%だった。

 長期で見ると19年卒から上昇し、コロナ禍でいったん下がったものの再び上昇している。それとほぼ逆の動きをしているのが「人のためになる仕事をしたい」で11.9%。10年卒以降で最低だ。

 「楽しく働きたい」の次に多いのは「個人の生活と仕事を両立させたい」で22.8%。「自分の夢のために働きたい」や「社会に貢献したい」はいずれも10.0%を割り込んでいる。

2024年卒大学生就職意識調査における就職観(出所)マイナビ

「Z世代」のこだわり

 こうした傾向からは、仕事を単に生活の糧(かて)を得る手段だと割り切り、自分と社会を結びつける活動だとは見なさない若者像が浮かび上がる。

 就職先を選ぶ際の基準は、変化がもっと鮮明だ。「あなたが企業選択をする場合、どのような企業がよいと思いますか(2つ選択)」との質問に最も多かった回答は「安定している会社」の48.8%で、2013年卒の19.4%から30ポイント近く上昇した。逆に02年卒では46.1%と最高だった「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」は30.5%まで低下。05年卒では25.0%を超えていた「働きがいのある会社」も10.4%に落ち込んでいる。

2024年卒大学生の企業選択ポイント(出所)マイナビ

 今の就活生はいわゆる「Z世代」だ。よく指摘されるコストパフォーマンス(コスパ)やタイムパフォーマンス(タイパ)へのこだわりが、労働観にも表れているのかもしれない。

Z世代の若者(イメージ)(出所)stock.adobe.com

時代が一周

 原因として浮かぶのは、親世代の影響だ。今の就活生の親は、ちょうど筆者と同じ氷河期世代が中心。就職に苦労しただけでなく、社会人になってからも企業がリストラや非正規雇用の拡大を進めるのを目の当たりにした世代に当たる。

 その親である団塊世代や、少し上のバブル世代までは終身雇用や年功序列賃金が当たり前だった。それが目の前で崩れていくのを眺め、企業の非情さを思い知った人が多い。自分の子どもに対しても、企業や仕事に期待を持たせるような教育はしなかったと想像できる。

 しかし、日経平均の最高値更新(前回は平成元年)に象徴されるように、令和に入って時代は一周しつつあるように見える。

 「昭和」を思わせる"冷戦"やインフレが復活し、企業は人手不足に悩んでいる。特に22歳の総人口は2040年にかけて100万人にまで減少する見通しで、現在の採用難は一過性の現象ではない。

22歳の総人口(出所)総務省、国立社会保障・人口問題研究所

人余りだった平成の発想

 かつて日本企業が終身雇用や年功序列賃金を導入したのも、高度経済成長に伴う人材獲得競争の中で優秀な社員を囲い込む必要があったからだ。今、崩壊しつつあるのは昭和の価値観ではなく、むしろその後に形成された平成の価値観なのではないだろうか。

 だとすれば、その大転換を企業側は十分に認識できていないように見える。多くの企業が雇用の流動化をさらに進めようとしているが、それは人余りだった平成の発想だ。人手不足の時代に賃金の魅力だけで流動化した人材を集めようとすればコストが高騰してしまう。

 裏を返せば、今後は潜在能力のある人材を若いうちに獲得し、長期的に囲い込んで育成できる企業こそが有利になるということだ。そうした環境で生き残るには、すぐに転職されてしまう賃金体系や帰属意識が育たない企業風土は見直さなければならないだろう。

良い意味で裏切る

 平成の間、多くの企業が従業員のやりがいを軽視した。その結果が、先に見た就活生の冷めきった労働観なのだろう。もちろん企業からすれば、それも急速に進んだグローバル化に対応するための苦渋の決断だったのかもしれない。しかし、時代は再び大きく変わりつつある。

 日本企業は若者が長く働くほど自分の成長を実感でき、賃金だけでなく仕事それ自体にも喜びと生きがいを感じられる職場を、もう一度提供できるだろうか。Z世代の低すぎる期待を、良い意味で裏切ることができるかが問われている。

松林 薫

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※この記事は、2024年3月26日発行のHeadLineに掲載されました。

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