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小学生がデータ分析、育てる「実践力」

 動き始めた教育現場のICT活用

2024年04月19日

社会・生活

研究員 仲村 直人
研究員 河内 康高

 先進各国と比較して日本の教育現場におけるICT活用が遅れているのは否めない。児童生徒へのタブレットなど端末配備は全国でほぼ完了したものの、有効に活用されているかどうか疑問符がつく。そうした中、大阪教育大学附属平野小学校はICT端末を利用し、校内イベントのデジタル・スタンプラリーで集めたデータの分析を授業で実施。この取り組みが、一般社団法人日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)が主催する「ICT夢コンテスト2023」の優秀賞に選出された。

 タブレット端末やインターネットなどのICTを活用した「教育」は、今までにない新しい形の授業。教育現場に「変革」が起き始めている。

20240417_01.jpgタブレット端末を使う児童(イメージ)

後れをとった日本

 経済協力開発機構(OECD)は3年ごとに、義務教育修了段階(15歳生徒、日本では高校1年生)を対象に学習到達度調査(PISA)を実施している。同調査によると、日本の教育現場におけるICT利用頻度は2022年時点でOECD加盟国の平均値を大幅に下回っている。

20240417_02.jpg授業の半数以上でICTを活用している割合(出所)OECDのPISA2022を基に作成

 文部科学省は2019年、ICT教育の遅れへの危機感から「GIGAスクール構想」を提唱。児童生徒1人に1台のICT端末(タブレットやパソコン)配備に向けた予算を計上した。22年度末時点で全自治体のうち99.9%が整備済みで、ハード面はほぼ整ったといえる。

 ハードは充実したものの、端末をどう授業に活用するかは現場に任されている。将来を担うデジタル人材育成には、効果的なICT教育が不可欠だ。

デジタル・スタンプラリーを教育に活用

 こうした中、大阪教育大学附属平野小学校は、スマートフォンやタブレット端末を活用した「デジタル・スタンプラリー」を4年生が実施。先進的なICT教育として注目を集めている。

 同校はかねて、学習指導要領によらない独自教科「未来そうぞう科」を通じて、「そうぞう的実践力」の育成を目指している。その一環で、「お化け屋敷」「スーパーボールすくい」など児童が「好き」を追求して創造的な展示ブースを作るイベント「Sフェス」を2022年に計4回(5月、7月、11月、12月)開催。初回はブースでスタンプがもらえる「紙」のスタンプラリーも併せて行った。しかし、イベント後に「紙の廃棄物が大量に出る」「各ブースへの来客数が正確にカウントできない」などの課題が児童から出た。

 このイベントで中心的な役割を担う山中圭輔教諭と児童で話し合った結果、解決策として挙がったのがデジタル・スタンプラリーだった。スマホやタブレットをかざしてスタンプを集める仕組みで紙が不要になり、ごみの削減につながる。加えてデータの収集ができ、来客数を正確にカウントできると考えた。

絵・写真をスタンプとして読み込み

 山中教諭はデジタル・スタンプラリーに関して調べていると、一般社団法人日本スタンプラリー協会のホームページに行き着いた。問い合わせたところ、学習教材などにシステム提供しており、同協会と連携してイベントを実施しているリコージャパンを紹介された。山中教諭は「経験豊富なリコージャパン担当者が子供たちと一緒になって授業への活用方法を真剣に考えてくれました。おかげで、デジタル・スタンプラリーを導入する道筋が具体的に見えてきました」と振り返る。

 2回目の「Sフェス」で、リコー独自の画像認識技術を用いたAR(拡張現実)サービス「RICOH Clickable Paper(リコークリッカブルペーパー)」を新たに活用した。多くのデジタル・スタンプラリーはQRコードを読み取ってスタンプを取得する方式だが、クリッカブルペーパーは画像や写真をスタンプとして読み込める。

デジタルでも「手作り感」

 このシステムならば、それぞれのブースを訪れた際に読み込むスタンプとして、児童が描いた「絵」を使用できる。105人が描いた絵の中から児童による投票で16枚を選んだという。自分たちの作品をそのままスタンプとして使うことで、デジタルでありながらも「手作り感」が生まれ、児童や保護者に好評を博した。

20240417_03.jpg「Sフェス」ポスター(左)と絵をスタンプとして読み込む参加者【2022年7月、大阪市<提供=リコージャパン(左)、山中教諭>】

 イベント後、児童が算数の授業でデジタル・スタンプラリーから取得した「ブースの来場者数」「来場者がブースに来た時間」など膨大なデータの分析にチャレンジした。しかし、生データのままでは小学4年生では処理しきれない。データ整理は教員が行い、場所別・時間別のスタンプ取得数を集計した。

データから「気づき」を得る

 そのデータから「何を読み取れるのか」「活用方法は何か」を児童に考えさせると、活発に意見が出てきた。そして、「時間帯によって人が来たりこなかったりする」「4年生教室に人が来やすいみたいだ」「イベント開始直後(9時)は入り口近くのブースに人が来る」「10時頃に一番人が多い」といった「気づき」を得ることができた。

 山中教諭は「データ整理は大人ならエクセルで自動化できます。しかし小学4年生にとっては難しい。そこは教師が補って、子供は問題に対して思考することを授業の狙いにしました」と強調する。

 児童はデータ分析で得た「気づき」を基に来場者がスムーズに回れるようにブースを配置、時間帯によって各ブースで対応する人数を変えるなど効率的に運営ができる方法を考え、3回目と4回目の「Sフェス」で実際に取り入れた。

解決の糸口を「体感」

 児童は集めたデータの活用が問題解決の糸口になることを、まさに「体感」した。山中教諭は「教科書にもデータ活用の項目はありますが、単に問題を解くだけでは『なぜこれをやるのか』がピンときません。自分たちが取得したデータを実際に見て考え活用することで、実社会でも使える知識・経験になると考えています」と指摘。授業を通じて児童の実践力を育成することの重要性を強調する。

 こうした成果やICT活用が高く評価され、「ICT夢コンテスト2023」の優秀賞を受賞。今年3月に開催された「教育の情報化推進フォーラム」で先進的なICT教育の実践事例として発表した。今後は文化際などの校内イベント、小学校と地域住民との交流イベントでのデジタル・スタンプラリー活用も検討している。

 山中教諭はより効果的なICT教育を模索しているものの、「もっと普及するには支援が必須」という。「担当教諭1人ではICT教育の企画やシステム構築に限界があり、デジタルスキルが十分な教諭ばかりではない」からだ。平野小のデジタル・スタンプラリーは山中教諭とリコージャパンの連携で実現した。学校と企業の連携が教育現場のICT化を加速させるカギになるかもしれない。

20240417_05.jpg山中教諭(左)とリコージャパン・デジタルサービス企画本部の永田大祐MICE・コンテンツグループリーダー【2024年3月15日、東京都渋谷区】

研究員 河内 康高

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