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海のハイウエー「北東航路」 欧州~日本間を10日間短縮

2015年01月01日

最先端技術

主任研究員
稲葉 清高

 交通機関にとっては、運ぶものが人であれ、物であれ、 「スピード」が「安全」「正確」「コスト」と並んで重要であることは間違いない。しかし、スピードを上げると、それ相応のコストがかかってしまう。例えば、着工が正式決定した「リニア新幹線」(東京・品川~名古屋)は工事費だけで4兆円を超える。しかし、ほとんどお金をかけず、輸送時間をほぼ半減できる「海のハイウエー」が実用化されつつある。それが、北極海を経由して欧州とアジアを結ぶ「北東航路」だ。

 北極海を取り囲むロシアやカナダ、米国アラスカ州などでは、人類が観測するようになってから、ずっと氷に閉ざされてきた。だが、地球温暖化により、北極や南極の周辺では氷が溶けはじめている。このため、極寒の海を船が往来できるようになる。

 つまり北極海を経由して、欧州とアジアを結ぶ最短距離の北周り航路 (下図)が生まれるわけだ。オランダ・ロッテルダム(欧州のコンテナ拠点) ~横浜間は、南周りの2万1000km(約24日間)に対し、北周りなら1万2000km(約14日間)に短縮されることになる。

201501_北東航路_1.jpg 「ベーリング海峡」にその名を残す、デンマーク生まれのロシア海軍准将ベーリングは 1740年、ロシアのシベリアとアラスカの間に海が存在することを発見した。その後、夏場であればスウェーデンのイェテボリから北東方向に進み、シベリアの海岸沿いを航行すると 、ベーリング海峡経由で横浜まで移動できることが、スウェーデンの探検家ノルデンショルドによって1879年に実証された。

 しかし19~20世紀にかけて、この北周り航路を使う国はロシア(後のソ連)ぐらい。それ以外の欧州とアジアの各国にとっては、距離は長くても氷のない南周り航路を利用するのが現実的だった。ところが21世紀に入り、8~10月上旬の短い期間ではあるものの、北周りの全行程から氷が姿を消す現象が観測されるようになったのである。

ウェザーニューズ社が挑む「専用衛星」

 北東航路の最大のリスクは、変化の激しい天候だ。的確な気象観測が不可欠だが、自然環境の厳しいシベリア以北では地上からの観測が難しい。

 米国のNOAAなど十数機の観測衛星が、北極圏の上空を通る軌道を周回している。しかし、これらの観測衛星は、北極海の気象観測に限定したものではないため、必要な時に必要な撮影ができない可能性がある。また、民間会社が衛星からの写真を入手して気象予測をしたくても、価格が非常に高いという問題も指摘されていた。

 そこで世界最大の気象情報会社であるウェザーニューズ社(本社千葉市、草開千仁社長) は、北東航路などに関する気象予報の精度を上げるため、自社専用の人工衛星を打ち上げるというプロジェクトに挑戦している。

 しかし、「北極海専門」人工衛星の打ち上げは、コストに見合うのか。 実は、人工衛星の中でも10kg程度の安価な小型機(開発費を含め2億~3億円)を、複数機相乗りで打ち上げることにより、コストの大幅削減が実現したのである。

 同社の第一号機が2013年11月に打ち上げられた際は、 大学などの実験用も含めて合計32機が一台のロケットに搭載され、当時の世界記録を樹立。従来の観測衛星と比べると、気象写真の一枚当たりのコストは格段に安くなる。ただし残念ながら、打ち上げ後にカメラが故障したため、気象観測には使われていない。

 今夏、同社は再チャレンジし、リカバリー機を打ち上げる予定。約90分に一回、北極海上空を通過する専用の観測衛星が周りだせば、北東航路の安全性も飛躍的に向上するだろう。

稲葉 清高

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※この記事は、2015年1月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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