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日本の「資源」を増やす!

海底6000メートルから・・・実験室の加速器でも

2015年01月01日

最先端技術

研究員
飛田 真一

 時価300兆円以上。日本の海底に眠り続けている金属資源の推定埋蔵額である(社団法人日本プロジェクト産業協議会)。なぜ途方もない金額になるかというと、日本の領海・排他的経済水域が国土の11.8倍もあり、世界6位に入るからだ。

世界の領海・排他的経済水域面積ランキング

世界の領海・排他的経済水域面積ランキング.jpg

 このように日本の海底には膨大な資源が確認されているのに、開発にはほとんど手が付けられていない。一方、陸地は資源に乏しいため、原油をはじめ液化天然ガス(LNG)やプラチナといったレアメタルなど、資源のほとんどを輸入に依存している。例えば、海底資源のメタンハイドレードからは、LNGと同じメタンガスを得られる。LNGの輸入額は7.1兆円(2013年)に達しており、もし海底開発が成功すれば貿易赤字を相当減らすことができる。

 また、結婚指輪の材質として人気の高いプラチナは700トン以上も日本の海底に眠っていると推定されており、これはプラチナ輸入量の14年分に相当する。プラチナは漢字で「白金」と表されるように、1グラム当たり4969円と、金4911円に匹敵する相場で取引されている。(2014年12月17日、田中貴金属工業)。プラチナは永遠の輝きを保つほか、反応物との吸着力が強いため自動車の触媒や燃料電池にも重用される。また、「プラチナチケット」のように入手困難の代名詞としても使われる。実際、有史以来の採掘量は金の30分の1に過ぎない。

 日本の海底資源の大きな特徴として、高濃度のレアアースを含む膨大な「泥」の存在が指摘できる。この中には、電気自動車や風力発電機のモーターに内蔵される磁石に欠かせないネオジムやジスプロシウムも大量に含まれている。

 もし、海底6000メートルの泥を地上に引き揚げられれば、日本は「レアアース大国」になる可能性がある。東京大学大学院工学系研究科エネルギー・資源フロンティアセンターの加藤泰浩教授の試算によると、採掘船1隻で年間300万トンの泥の中からレアアースを1万1300トン回収できるという。これは日本のレアアース輸入量1万6205トン(2013年)の7割に相当する。加藤教授は「2020年東京オリンピックで使われる電気自動車などに必要なレアアースを『日本産』に切り替え、日本の技術力と資源の存在を世界に示したい」と意気込んでいる。

加藤泰浩教授.jpg

『レアアース泥』回収の事業構想.jpg

 ところで、プラチナやネオジムといったレアメタルも当然、原子である。原子は自然界に92種類存在するほか、人工的に新しい原子を合成する技術が生まれたため、その種類は増え続けている。

 原子は「陽子」「中性子」「電子」で構成され、原子番号は陽子の数を示し、陽子の数が異なるからこそ、水素、酸素、鉄などの原子に分かれる。137億年前、ビッグバンで陽子が生まれ、水素が出現。次に陽子2個と中性子2個が結び付いてヘリウムが、各3個ずつでリチウムも登場した。

 このように原子は「神の手」により造られた。しかし今や、東京大学や理化学研究所などは、原子を人工的に合成する技術を持っている。どのようにして合成するのか、東京大学大学院理学系研究科の櫻井博儀教授に聞いた。

 原子を人工的に合成するには、加速器で原子と原子※を猛スピードで衝突させる方法、または原子から陽子を引き離して小さい原子にする方法などがあるという。新しい原子の合成を目指し、各国で熾烈な競争が繰り広げられている。最初に合成ができれば、命名も許される。理化学研究所のチームは2004、05、12年の3回、世界で初めてビスマス(原子番号83)に亜鉛(同30)を衝突させ、原子番号113の原子を誕生させた。まだ名前は決まっていない。

※中性子過剰な放射性同位元素なども原子と表現した。

 ただし、原子の合成は非常に難しい。新しい原子を誕生させるために1垓(10の20乗)回に達する衝突を試みたが、そのうち合成できた113番原子はたった3個に過ぎない。実験期間は10年に及んだという。こうした技術開発が進んでいくと、例えば水銀から陽子を一つ引き離して金を合成するという、夢のような「錬金術」でさえ実現するかもしれない。もちろん、原子の合成には加速器とそれを動かす電気代が高価なため、現時点では「人工合成金」は採算がとれない。

 しかし、およそ70年間でコンピューターの重さは20トン超から、129グラム(アップル社製iPhone6)になり、性能も省エネも飛躍的に向上している。原子合成も量産化技術が確立され、コストが劇的に下がれば、ハイテク材料や宝飾品として活用される時代が来るだろう。

 「加速器の技術と最新のレーザー技術、それに最先端の原子合成理論を組み合わせながら、世界初の実験方法を編み出し、113番より重い原子などを発見していきたい」-。櫻井教授は夢を膨らませている。

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元素の周期表.jpg

飛田 真一

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※この記事は、2015年1月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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