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「手書き」だからこそ伝わる

=ホワイトボードで会議を熱くする=

2017年04月04日

最先端技術

研究員
佐々木 通孝

 パワーポイントが普及したおかげで、だれもが見栄えの良いプレゼン資料を手軽に作れるようになった。会議資料を印刷せず、手元のタブレット端末で議事を進めるペーパーレス会議を導入している会社も増えている。それでも、多くの企業の会議室には、昔ながらのホワイトボードが設置されているのではないだろうか。

活字よりも情報量が多い「手書き」

  巨大スクリーンとデジタル機器を駆使しながら、スタイリッシュなプレゼンテーション。それによって多くの聴衆を魅了した米アップル創業者のスティーブ・ジョブズは意外にも、社内の会議ではホワイトボードを愛用していたそうだ。

 アップルに限らず、米シリコンバレーに本社を構えるIT企業では、壁一面をホワイトボードにするのが流行している。ちょっとした思い付きをメモし、立ち話をしながらアイデアを書き込んでいくうちに、そこからインスピレーションが広がり、新しいサービスを発想するきっかけになるという。どんなにデジタル機器が普及しても、私たちが仕事をする上で、最も手軽で便利で誰もが使いこなせる情報処理手段は、いまだに「手書き」なのだ。

  ホワイトボードなら、限られたスペースの中に文字だけでなく、記号や数式、図を共存させることができる。文字の配置や大きさによる強弱によって、書き手の関心度や、情報の重要性に対する評価を瞬時に会議参加者に伝えられる。

  議論が白熱してくれば、自然と勢いのある大きな文字になり、意見が否定されて悔し紛れに付けた「×」印には怒りが乗り移っているはず。確信が持てず遠慮がちに出したアイデアは、無意識のうちにボードの隅の方に小さな文字で書き込まれているだろう。「手書き」の文字は、単なる言葉の意味を伝える記号ではなく、その時の心象風景や会議の空気までも記録して保存する媒体となる。つまり、活字よりもはるかに情報量が多いのだ。

 ただ、旧来のホワイトボードはアナログな道具であるが故の欠点もあった。例えば、その場にいる人には会議の進行がダイナミックに伝わるものの、別の拠点にいる人には容易に情報を共有することができない。また、ボードがいっぱいになって消してしまうと、情報をさかのぼって見つけられない。「あの時確か、重要なキーワードを書き出したのに...」と振り返っても、後の祭りということもある。

ホワイトボードがデジタル技術で進化

 しかし、アナログなホワイトボードにデジタル的な要素を付け加える形で、こうした問題点も克服されつつある。開発の初期段階では、ボードに書いた内容を備え付けのプリンターで出力できるという単純なものだった。その後、板面を画像データとして保存し、外部の機器に取り込むことも可能になった。

 さらに進化した「インタラクティブ・ホワイトボード」では、パソコンやカメラなど外部の記録媒体のデータをボード上に投影し、その上から手書きの文字を書き込むこともできる。いわばプロジェクターとホワイトボードのハイブリッド版と言えるだろう。さらに、複数の拠点に分散しているホワイトボードをオンラインで結び、まるで同じ会議室で議論しているかのように板面をリアルタイムで共有できるようになった。

 例えば、大阪と神奈川のオフィスを結んで、新商品の開発に向けた作業フローをボードに映し出してみる。そして、「ここまで月内に完了させること!」「了解しました」などとキャッチボールするかのように、文字を書き込んでいけば、双方に認識のズレなく仕事を進めることができる。

 最近では、最先端のIT企業もデジタル化したホワイトボードの市場に本格参入。4Kディスプレイにウェブカメラやマイク、スピーカーなどを搭載し、電子会議環境をパッケージで提供している。

 

大阪と神奈川のオフィスを結んでボード会議

リコー池田事業所(大阪府池田市)

リコーテクノロジーセンター(神奈川県海老名市)

瞬時に記憶を呼び起こす「手書き議事録」

 インタラクティブ・ホワイトボードが特に便利なのは、画面を「議事録」として保存できる機能だ。議論が紛糾して時間内に結論が出ず、1週間後に再び会議が開催されたとしよう。その際、先週ボードに書いた文字や、強調した赤い二重線を見た瞬間、議論の熱気までがよみがえってくるのだ。

  ボードのどの辺りに、どんな大きさで書かれていたか―。こうした書記の手書き文字のクセには、テキストデータの議事録より、脳にとって手掛かりとなる情報が豊富に含まれる。このため、1週間前のことでも容易に思い出し、スムーズに議論を再開できる。

 少子高齢化に伴う労働力人口の減少を背景に、働き方改革の議論が活発化している。都心のオフィスに通勤するのが当たり前ではなくなり、自宅やサテライトオフィスで仕事をするリモートワークが急速に普及するだろう。

 また、グローバル化の加速や自前主義からの脱却によって、テーマごとに他の企業や団体とコラボレーションする機会も増えていくだろう。その際、必要なメンバーがどこにいても、インタラクティブ・ホワイトボードがあれば、すぐに会議や打合せもできる。電子メールやSNSによる情報共有により、議論に「熱」を加えることもできる。

  近い将来、インタラクティブ・ホワイトボードがリモートワークの必須アイテムになり、自宅のリビングに進出してくる日が来るかもしれない。さらに、「手書き」によって「熱」が伝わることを活かし、離島の子どもたちに対するサテライト授業や、一人暮らしの高齢者と病院の間のコミュニケーションなど、その可能性は大きく広がっていきそうだ。

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リコー インタラクティブ ホワイトボード

佐々木 通孝

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※この記事は、2017年3月27日に発行されたHeadLineに掲載されました。執筆者の所属および肩書きは、当時のものです。

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