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人に美味しく、地球に優しい冷凍食品

=「食品ロス」の削減にも効果=

2017年03月30日

最先端技術

研究員
飛田 真一

 温めるだけで料理を楽しめる冷凍食品。今や日本人の食卓には欠かせない存在だ。国内生産量を品目別に見ると、うどん、コロッケ、ハンバーグという庶民的なメニューがトップ3を占める。

 冷凍食品の国内生産ランキング.jpg

 その一方で、冷凍食品の国際化も進行する。2016年11月、フランスの大手冷凍食品専門店ピカール(Picard)が日本に初上陸し、東京・南青山に1号店をオープンした。スパゲティやパイ、スープ、スイーツなどフランスの「家庭の味」が自宅で堪能できる。

   ピカール冷凍食品.jpg

 食生活に急速に浸透した冷凍食品だが、日本における歴史はまだ90年ほどしかない。その過去と現在、そして未来について、食品冷凍学を専攻している渡辺学・東京海洋大学大学院准教授に取材した。

渡辺准教授.jpg

 渡辺氏によると、現在の冷凍食品の美味しさは、凍結技術の進歩だけで実現したわけではない。冷凍前に行う食材前処理や低温保存、低温輸送、解凍技術といった冷凍食品システム全体の技術革新によってもたらされた。

 日本における本格的な食品冷凍技術の開発は、マグロから始まった。昭和の初め、1927年には冷凍マグロの対米輸出がスタートしているという。しかし当時の技術では冷凍しても、マグロの赤身は徐々に黒っぽく変色してしまう。

 1950年代に入り、マグロの体内にあるミオグロビンという化学物質によって変色することが分かった。また、マイナス60℃まで冷やすと、変色をもたらす化学反応が起きないことも判明した。このため、今ではマイナス60℃程度で冷凍された新鮮なマグロが、世界中で流通している。

 ところが、食品冷凍技術が進んだ現在でも、水産物の獲れたての美味しさをそのまま保存することは難しい。水揚げ時に魚が暴れてしまうと、筋肉細胞中に蓄積された疲労物質が凍結によるダメージをもたらし、解凍後の美味しさが損なわれてしまうという。

 言い換えれば、水揚げ直後の食材前処理と急速冷凍が可能であれば、美味しさを保つことができる。渡辺氏は「漁港周辺でしか食されていない『幻の魚』を冷凍し、将来は全国の食卓に届けられるようにしたい。それによって漁師さんも元気になるのでは...」と話す。最近では、東京海洋大学大学院の鈴木徹教授や渡辺氏らが「殻つき生牡蠣」を美味しく冷凍する技術の開発に成功し、賞味期限を長くできるようになった。

 こうして様々な食材の賞味期限を延ばしていければ、食べられるのに捨てられてしまう「食品ロス」も減らせるのではないか。国内の食品ロスは年間632万トン(2トン積みのごみ回収車で約316万台分)にも達し、うち302万トンは家庭で発生しているのだ。

食品ロスの内訳(円グラフ).jpg

 もし食品ロスを削減できれば、地球環境の改善も期待できる。例えば、1kgの肉を生産するのに必要な水の量は豚で約6000リットル、牛では約2万リットルになる(環境省)。さらに、食品の生産・輸送や廃棄物の焼却などで消費されるエネルギーも節約できる。ではどうしたら家庭で食品ロスを減らせるのか。そのカギを握る冷凍・解凍の「技」を渡辺氏に教えていただいた(BOX)。

 これからの研究について、渡辺氏は「まだまだ日本では冷凍食品に対し、『味が落ちる』といった先入観が強い。実際はレストランでも提供されているのに...。冷凍食品を正しく理解してもらえるように実験を重ね、『人に美味しく、地球に優しい』を追求していきたい」と語っている。

 

実験室.jpg

飛田 真一

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※この記事は、2017年3月27日に発行されたHeadLineに掲載されました。執筆者の所属および肩書きは、当時のものです

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