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快走中~自転車ツーキニスト

ブームを支える日本のハイテク技術

2014年07月01日

最先端技術

研究員
佐々木 通孝

201407_自転車_1.jpg 高層ビルが林立する東京・丸の内のオフィス街。この中を毎朝、何台もの自転車が颯爽と駆け抜けていく―

 こうした「自転車ツーキニスト」と呼ばれるビジネスパーソンが急増している。健康志向の高まりはもちろん、バブル崩壊後の地価下落で自転車通勤圏内に住む人が増えているという事情もありそうだ。

高層ビルの地下に駐輪場が...

 自転車ツーキニストの中には、超軽量・高性能のロードレース用モデルに乗っている人が少なくない。人気商品は20万円を超えるため、決して安い買い物ではない。でも軽く漕ぐだけでスピードが出るから、20キロ程度までなら十分通勤可能になる。

 こうしたツーキニストを支援するため、シャワーとロッカーが完備された屋内の駐輪場ビジネスも定着した。汗を流し、ヘルメットを預け、靴を履き替えれば、出勤準備完了。利用者は愛車の盗難を心配することなく、仕事に集中できる。

 高層ビルの地下に駐輪場をつくったのが、「Marunouchi Bike & Run」。この店をプロデュースしたのが、世界最高峰の自転車レース「ツール・ド・フランス」のテレビ実況でおなじみの白戸太朗氏だ。自転車を知り尽くす白戸氏でも、オープンが東日本大震災直後になったため、不安を拭えなかったという。しかしフタを開けてみると、直ぐに駐輪場の定期契約率は90%に達した。「個人契約のほか、外資系のメディア企業に法人契約してもらった。多くの人たちに待望されていたサービスなのだろう」という。


自転車は欧米ブランドが圧倒 でも部品は日本勢

 この駐輪場に預けられているロードレース用自転車のほとんどが、欧米のブランドである。しかし、採用されている主要部品(変速機、ブレーキ、ホイール、タイヤなど)やカーボンファイバーに代表されるフレーム素材を見ると、日本企業が大いに健闘している。

 白戸氏は「1970~80年代、日本企業はツール・ド・フランスに参加する欧州の選手に部品や素材を使ってもらえず、苦労したと思う。次第にその品質の高さが認められ、今では日本製部材への憧れさえ感じられる」という。

 ツール・ド・フランスに参戦する自転車の部材の中で、最も有名なのはシマノ(大阪府堺市)のコンポーネントだ。これは、変速機やブレーキ、ペダル、前後輪の歯車、チェーンといった駆動・制御部分の総称である。ツール・ド・フランスで採用されたコンポーネントのメーカー別シェアを見ると、イタリアや米国のメーカーを抑え、シマノが断トツである。実際、2010年から13年まで、総合優勝した各選手はシマノのコンポーネントを使用している。

 都心に住む米国のビジネスマンも「イタリア製のコンポーネントはカッコイイけど、性能を考えるとシマノだよね。悪いところが見つからない」という。彼は通勤にシマノのトップモデルを使っている。


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高剛性と高弾性を両立したカーボンフレーム

 ところで、2012、13両年のツール・ド・フランスでは、イタリアの老舗ピナレロ社の自転車を操る英国勢が総合優勝を勝ち取った。同社のウェブサイトを見ると、選手に提供された最新鋭モデルのフレームに、東レが開発したカーボンファイバーが採用されている。一般的にフレーム材の開発は、硬くすると弾性が犠牲になる。しかし、東レのカーボンファイバーは、高剛性と高弾性を両立した。欧州で見かける石畳の路面も安定して走れ、レースのゴール付近で行われるスプリント勝負でも、選手のパワーをしっかり大地に伝えてくれる素材だ。


 パナソニックポリテクノロジー(兵庫県丹波市)は、「パナレーサー」というブランドで自転車用のタイヤを製造・販売する。かつては世界選手権で中野浩一選手の優勝に貢献した。パナレーサーは日本のタイヤブランドとして初めて2005年のツール・ド・フランスに参戦。翌06年にはタイヤを供給した選手が個人総合ポイント賞にて準優勝し、昨年も山岳コースで敢闘賞を獲得している。

 これからの活躍に期待が高まる製品もある。それはオージーケーカブト(大阪府東大阪市)製のヘルメットだ。一昨年、イタリアの名門チームに採用され、ツール・ド・フランスで活躍が目立つようになった。さらに、今年から世界ロードレース選手権の昨季優勝者が、このヘルメットを被っている。前出のビジネスマンも、初めてオージーケーのヘルメットを試した時、「被っているのを忘れるくらい軽くて、フィットしてるね」と驚いていた。


「もう0.1グラム軽く」...過酷な技術競争

 これまで紹介した日本製部材は、いずれも超軽量化を実現している。それに満足することなく、「もう0.1グラム軽くしよう」という過酷な技術競争が繰り広げられている。同時に、世界のトップ選手のパワーを受け止め、厳しいレース条件を乗り切れるだけの耐久性も維持しなくてはならない。

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 このように日本メーカーの部材は欧州で認められ、世界最高水準にある。その技術は当然、自転車ツーキニストが購入するロードレース用自転車にも応用されている。白戸氏は「世界一の体感は、ツーキニストを高揚させる効果があるのではないか」と分析する。巨額資金を投じてF1レースに参戦する自動車メーカーと似たブランド戦略が、自転車部材メーカーからも透けて見えてくる。

 ただし、高性能のロードレース用自転車を操る、ツーキニストには高いモラルが求められる。交通ルールの順守はもちろん、目立つ色のウエアを着用し、万一の事故に備えて自転車保険にも加入すべきである。自転車ツーキニストにも、社会の一員として自覚が求められている。

佐々木 通孝

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※この記事は、2014年7月1日に発行されたHeadlineに掲載されたものを、個別に記事として掲載しています。

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