2018年05月14日
最先端技術
常任参与
稲葉 延雄
昨今、先端技術の話となると、人工知能(AI)やロボットで持ち切り。また、未来の産業を支える基礎技術として必ず出てくるのが、ナノ・テクノロジーやバイオ・テクノロジーである。しかし、あまり目立たないが、米欧ではプリンティング・テクノロジーを重要な未来技術として指摘する論調が増えている。
プリンティングに着目する人々は、単にプリンターが様々なものに印刷する技術を有するだけでなく、様々な造形を可能にする技術であることを強調する。特に、電子情報とモノを結びつけ、一体的かつ複雑精緻な造形を可能にするのは、「プリンターとりわけ3Dプリンターしかない」という主張が目新しい。
例えば、人類にとって究極の造形ニーズである人工臓器を思い浮かべると、この主張は理解しやすい。臓器を複製するには、もはやこれまでの組み立て加工技術では不可能。従来のような「ネジ」「釘」や「ハンダ」「溶接」などでつなぎ合わせても、またロボットを使って微細な加工を試みても無理なのである。
実際、現在の人工心肺は机ほどの大きさもあり、とても人体には埋め込めない。だから、体に埋め込める人工臓器は原理的にプリンターで作るほかはない。もちろん現状では、臓器の複製までは技術的に無理だが、細胞シートであれば複製の目途が付きつつある。
プリンターによる造形のもう一つのメリットは、技術さえ確立できれば、少量生産でも安価なコストで作れるということである。
人類は長らく大量生産方式で固定費を下げ、総コストを引き下げる技術を極めてきた。だがその一方で、大量であるが故にどうしても資源の無駄遣いや販売価格の値崩れというジレンマに悩まされ続けた。プリンターが実現する、少量かつ低コストの生産方式こそが、初めて人類をこのジレンマから解放するのである。
このように考えをめぐらすと、何でも印刷して何でも造形できるプリンティング・テクノロジーは、先進国で現在進行中の「第四次産業革命」をリードする未来技術であるといえよう。
これまで我々の組織は主にオフィス・プリンターを提供することで、人々の豊かさを増進してきた。プリンティング・テクノロジーにさらに磨きを掛けて未来に展開できれば、引き続き豊かさの増進に貢献できる。実に幸せな組織というべきであろう。
稲葉 延雄