2018年09月04日
最先端技術
研究員
伊勢 剛
クルマの自動運転の研究開発を進める群馬大学「次世代モビリティ社会実装研究センター」の新拠点が2018年5月、前橋市の荒牧キャンパス内に完成した。そこで7月下旬、太田直哉(おおた・なおや)センター長にインタビューを行い、新拠点の特徴や実証実験の最新動向などについてお話をうかがった。(1)
敷地に入ってまず目に飛び込んできたのは、運転免許試験場と見間違えるような自動運転車専用の試験コースだ。2車線道路に中央線が引かれ、交差点なども配置、その広さは約6000平方メートルを誇る。信号機や標識、側壁なども設置されており、しかもクレーンを使って場所を変えることができる。
さらに驚きなのは、白線も動かせるようになっていることだ。よく見ると白線は直径30センチメートルくらいの円盤状のボードの中央に引かれており、その円盤を動かすことでコースを自由に設定できる仕組みである。
このセンターは乗用車やバス、トラックなど17台の自動運転車両を保有しており、稼動させる車両の台数や組み合わせを変えたり、コースの形状などを変えたりすることによって、さまざまな状況を想定した自動運転試験が可能だ。また、併設されたシミュレーション室では3D映像を使って自動運転時の状況を再現できるため、実験のバリエーションが大きく広がる。
自動運転車専用試験コースの全景
円盤状のボード中央に引かれた白線、ボードを動かせば簡単に引き直せる
3D映像を使ったシミュレーション室
新拠点の特徴はコースだけではない。脇の建物内に設置されている遠隔管制室も興味深い。壁に並べられた複数のモニターを遠隔監視して、トラブル発生時には指示を出す「司令塔」なのだ。
公道の実証実験でも使われる遠隔管制室
この管制室は単にコースをモニターするだけでなく、11月からは公道で行われる路線バスの自動運運転の実証実験でも活躍する予定だ。群馬大学が前橋市や日本中央バス(本社・前橋市)と連携して進めているもので、JR前橋駅~上毛電鉄中央前橋駅間(約1キロメートル)のシャトルバス路線で、実際にお客様を乗せて運賃を徴収する。路線バスでは日本初の取り組みであり、事業用自動車ナンバープレート(通称=緑ナンバー)も取得済み。整備場をのぞいてみると、実験に備えて自動運転バスの整備がまさに行われていた。
整備中の自動運転バス
太田センター長は「自動運転は技術的な実験だけでは不十分であり、社会に実装していくためには産業界や行政と連携が必須である。そのために大学は"接着剤"の役割を果たしていきたい」と語る。バスやタクシーの事業会社だけでなく、案内標識や駐車場システム、損害保険、VRシステムなどの幅広い業種の企業と連携して社会実装を目指しているという。
さらに太田センター長が見据えているのは物流への応用だ。「バスや車が自動運転になっても人や物品を運ぶラストワンマイル、例えばバス停から自宅までをどうするのかが注目されるようになる」
新拠点には、荷物の集配達にも適用できる自動運転の低速モビリティ車(最高速度時速20キロメートル)を導入し、研究に着手している。ほかにも一人乗りのモビリティや運送ロボットなどラストワンマイルを担うものに研究対象として取り組んでいくという。
自動運転低速モビリティ車
自動運転中の車内
赤城山、榛名山、妙義山の上州三山を見渡すことができる新拠点。その雄大な山々をバックに、前橋から未来のモビリティ社会の夢が広がっていってほしい。
(写真)筆者 RICOH GR
(1)新拠点完成前の2018年2月にも自動運転の展望や実証実験の取り組みについて太田センター長にインタビューを実施、コラム「日本でも加速してきた自動運転の実証実験」を参照。
伊勢 剛