2018年11月14日
最先端技術
常任参与
稲葉 延雄
企業が技術革新の力をうまく使って新しい財・サービス供給の提案をすれば、社会の様々な課題の解決につなげることができる。人々にも豊かさの充実を実感してもらえる。人類の歴史は、そうした先人たちの努力の積み重ねだともいえる。
長距離移動を例にとると、東京~京都間は江戸時代には徒歩で10日以上かかった。費用は宿泊費を含め一人4両程度だったというから、今の40万円ほどである。現在は新幹線で2時間強、費用は1.3万円(自由席)。所要時間が大幅に短縮される一方で、費用は30分の1になった。新幹線に乗るたびに、往時をしのびながら豊かさを実感する。
しかし、われわれの周囲にはまだまだ解決すべき社会課題が山積する。これまでのアナログ技術では行き詰まっていたものばかりだから、デジタル技術を応用した解決が待たれる。いくつか例示しよう。
速さの面で進化した長距離移動ではあるが、交通機関とりわけ自動車による不慮の事故が絶えないことは大問題である。いくら早く目的地に着けても人身事故が頻発するようでは、満足度が大きく減殺されてしまう。ステレオカメラを中心とする光学技術と、人工知能(AI)を組み合わせた自動運転車の本格実用化が待ち遠しい。
健康面では、医療サービスの高度化につれて診療コストが年々増大し、財政悪化の主犯格にされている。財政再建のためには増税の継続が必要とされるが、無限に続けることなどできない。だから、高度な画像診断技術や人工臓器・細胞シート作成のための3Dプリンターの開発などを通じて、われわれは医療サービスの高度化とコスト削減の両立に貢献しなくてはならない。
環境面では、水資源に乏しい地域で染色事業による水質汚濁が問題になっている。繊維に直接印刷できるプリンターの活用は解決手段の一つとなる。このほか、様々な用途に対応する「何でも印刷できるプリンター」の開発もわれわれの責務である。
生産活動面では、より一体的な加工やより精緻な加工の緊要性が増している。金型を中心とする従来の生産システムでは明らかに限界があり、3Dプリンターを中心とする新システムの導入が全世界的に必須である。
このようにわれわれの組織が持つプリンターや光学の技術をデジタル技術で高度化できれば、社会課題の解決につなげられる。世界はわれわれが一歩、二歩と前に踏み出すことを大いに期待しており、それに応えなくてはならない。
稲葉 延雄