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データセンターを省エネ化、「光電融合」とは?

=先行するNTT 、2030年に「チップ」実用化へ=

2022年04月12日

最先端技術

研究員
片桐 敬太

 クラウドサービスに欠かせないのが、大規模データセンター。その需要が今、急拡大している。コロナ禍をきっかけに、テレワークなどが急速に普及したためだ。クルマの自動運転などビッグデータを利用したサービスが広がると、需要はさらに増えるのは必至だろう。

 そこで問題になるのが、データセンターの消費電力。脱炭素化を迫られる中、データセンターで用いられるサーバーをいかに省エネ化するかが課題になる。

計算を電気から光に置き換えると...

 そのカギを握る技術の1つとして、注目を集めているのが「光電融合」である。コンピューターが行う計算に、電気に加えて光を用いることで消費電力を抑える技術だ。

 従来のコンピューターでは、電気のオンとオフを切り替えることで計算を実行する。電気は回路を流れる時に熱を発する。パソコンに複雑な処理をさせると、熱くなるのもこのためだ。熱くなるということは、その分エネルギーが使われないまま捨てられることを意味する。さらに、発熱すると電気の通り道の抵抗が大きくなり、計算速度も落ちてしまう。

 そこで、電気で行なっていた計算を、光を用いた処理に置き換える研究が進められている。光は電気に比べてエネルギー消費が小さく、遅延も起きにくい。エネルギーの無駄遣いや処理の遅れを大幅に減らすことができるのだ。光で信号を送る技術自体は既に実用化済み。光ファイバーを使ったインターネットサービスもその1つだ。

 ただし、電気回路をすべて光回路に置き換えられるかといえば、話はそう単純ではない。電気と光の性質は異なるので、一部の複雑な計算については光で処理する技術がまだ確立されていないからだ。このため現在は、電気と光の両方を組み合わせて計算する「光電融合」の研究が進められている。

 こう聞くと、実現は容易に感じるかもしれない。しかし、この分野に詳しい九州大学の川上哲志助教は「処理性能や省エネなどの価値が、光信号と電気信号を相互に変換するコストを上回らないと実用化は難しい」と指摘する。

 実は、光から電気への変換処理には部品の追加が必要になる。このため、通常の電気回路と比べて電気を余計に消費してしまい、回路が大型化しやすい。こうしたデメリットが、省エネなどのメリットを上回ってしまえば光電融合に意味はない。

計算チップの超小型化を実現「フォトニック結晶」

 近年、光電融合の研究が加速しているのは、この問題の解決に役立つ素子が開発されたことが大きい。それが、半導体として使われるシリコンなどに極めて小さい穴を開けた「フォトニック結晶」だ。

フォトニック結晶の構造
図表(注)1nmは10億分の1メートル
(出所)NTTを基に筆者

 フォトニック結晶では、光を直径200ナノメートル(=髪の毛の太さの約400分の1)の空洞にだけ通すことができる。またこの結晶を用いると、計算を行うチップ(=集積回路)を超小型化できるという。光が通る際の発熱量(=エネルギーのロス)はチップのサイズが小さいほど抑えられるので、大幅な省エネ化が図れるわけだ。

 こうした技術の開発で先頭を走るのがNTT。2019年、光電融合など光を中心とした革新的な技術を活用し、高速大容量通信を実現する「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想」を発表した。その開発ロードマップによると、まず計算に使うチップと周辺部品を光でつなぐ技術を確立。次の段階ではチップ同士を光で接続した上で、2030年の最終段階において光で計算する光電融合チップの実用化を目指す。

「光電融合」開発ロードマップ

図表(出所)NTTを基に筆者

 先述の川上助教が指摘した省エネ化という課題にも、NTTは取り組んでいる。「NTT技術ジャーナル」(2020年8月)によると、フォトニック結晶が計算チップの小型化をもたらし、消費エネルギーを従来の100分の1以下に低減させることに成功したという。

データセンター省エネ化「40%以上」目指す経産省

 光電融合が普及するには、ハードに加えてソフトの開発も重要になる。川上助教は、光電融合回路のチップを使いやすくするには、「ライブラリ」(=開発用プログラムのパッケージ)が不可欠だと指摘する。

 例えば、映像処理の高速化に使われる、グラフィックス・プロセシング・ユニット(GPU)と呼ばれる演算装置は近年、ゲーム向けなどで急速に普及した。GPUというハード自体は以前からあったが、米半導体大手エヌビディア(NVIDIA)が使い勝手の良いライブラリを提供したことで利用に火がついた。光電融合の普及に向け、ライブラリの開発は一層盛んになるだろう。

 光電融合が普及すると、わたしたちの生活はどう変わっていくだろうか。経済産業省が推進する「次世代デジタルインフラの構築」プロジェクトでは、光電融合などを活用することで、2030年までに現在の最先端データセンターと比較して40%以上の省エネを目指すとしている。よりクリーンで計算能力の高いデータセンターが増えることで、インターネットはますます便利になるはずだ。

 光電融合の活用先はデータセンターに限らない。低価格化・小型化が進めば、将来は電気自動車(EV)や家電など身近な製品にも組み込まれ、脱炭素化に大いに貢献するかもしれない。光ファイバー量産製法の確立をはじめ、光を用いた技術は日本の「お家芸」。近年、ICT 分野では遅れが目立つ日本だが、光電融合が巻き返しの起爆剤になることを期待したい。

写真光電融合で巻き返せるか...(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

片桐 敬太

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