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人間がメタバースで死ぬ日

=【書評】メタバースとは何か(岡嶋裕史、光文社新書)=

2022年05月10日

最先端技術

研究主幹
中野 哲也

 インターネット上に構築されるメタバース(三次元の仮想世界)をめぐり、関心が急速に高まってきた。2021年10月、インターネット交流サイト(SNS)最大手のフェイスブック(FB)が事業の軸足をSNSからメタバースに移し、社名までもメタ・プラットフォームズ(メタ)に変更すると発表した。それを境に、メタバースの認知度が一気に上昇したように思う。

 足元の出版業界では、メタバース関連の書籍刊行ラッシュが始まり、雑誌も特集の編集に追われる。しかし、メタが「超えた」を、バースがユニバースの一部で「世界」をそれぞれ意味するから、その定義は「リアルを超えるバーチャルな世界」と説明されても、分かったような分からないような...。

 こうした中、良質の入門書に巡り合った。岡嶋裕史・中央大学国際情報学部教授の近著「メタバースとは何か」(光文社新書)である。同氏は「重度のオタク」を自任するほどSNSやゲームに造詣が深く、仮想世界の光と影を知り尽くす。

写真(出所)光文社

 それだけに、「今後はちゃんとした人も『放課後に仮想世界で会う約束をする』のがスタバで会うのと同じくらい違和感ない行いになるかも」「これからは仮想世界で就業や就学ができるようになるかも」という、岡嶋氏によるメタバースの未来予測には説得力を感じる

 もちろん、メタバースの正の側面だけでなく、岡嶋氏は負の側面も冷静に指摘する。また、本書は未来論や技術論にとどまらない。メタバース覇権をめぐり鎬(しのぎ)を削り合う、GAFAM(グーグル、フェイスブック=現メタ、アップル、アマゾン、マイクロソフト)の戦略について平易に解説しており、「ちゃんとした人」にも大いに参考になるだろう。

 「日本企業はメタバースで生き残れるか?」という項目では、岡嶋氏はゲームやアニメに対する日本人の独特の世界観を示しながら、「メタバースこそ、日本が無限大の集積を持つ勝負分野」と強調。「日本のメタバースはいい戦いができる」と読者を鼓舞する。

 岡嶋氏は「状況が許すならメタバースで生きて、そして死にたいと考えています」「自分にとって快適なフィルターバブルの中に潜って、そのバブルでのナンバーワンを目指すのは理のある選択肢です」という。こうした主張に違和感を覚える人は少なくないだろう。

 しかし、ウクライナ危機が続く現実世界に生きていると、メタバースのほうがマシじゃないかと考える人が増えても不思議ない気もする。果たして、メタバースが産業革命級のパラダイムシフトをもたらすのか、それとも一過性のブームで終わるのか。それは分からないが、「メタバースは無視するにはちょっと大きな潮流」という岡嶋氏の洞察には耳を傾けたい。

写真無視するにはちょっと大きな潮流に...(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

中野 哲也

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