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Withコロナ時代に適応「ハイブリッドワーク」

=オフィス・在宅併存を模索する米企業=

2021年12月23日

働き方改革

主任研究員
田中 美絵

 新型コロナウイルス感染症の影響によって、世界中で拡大したリモートワーク。変異株「オミクロン株」の発生もあり、感染収束がまだ見通せない。こうした中、多くの企業が「withコロナ」時代に適応する働き方を模索し始めた。本稿では先進事例となりそうな米国のIT(情報技術)や製造業、金融界の取り組みを紹介する。

写真世界中に拡大したリモートワーク(イメージ)
(出所)stock.adobe.com

 米国を代表する巨大IT企業では、奇しくも「週3日出勤」がキーワードになった。インターネット通販最大手アマゾン・ドット・コムは2021年3月、「オフィス中心の文化への復帰を想定している」と発表。ところが従業員からの反発が出たため、軌道修正した。6月には週3日オフィス勤務、週2日在宅勤務を原則とする新たな基本方針を公表した。

 アップルも週3日のオフィス勤務を社員に求めた。ティム・クック最高経営責任者(CEO)は6月、月・火・木曜日にオフィスに戻るように求めるメールを従業員に送信。しかし、こちらも一部から反発があり、最大週5日のリモートワークが可能となる選択肢を求める声が上がっている。

 グーグルは週3日のオフィス勤務を提示しつつも、より柔軟な働き方も許容する。サンダー・ピチャイCEOは公式ブログで、希望すれば異なるオフィスでの勤務や完全リモートワークも可能としている。最終的には、従業員の60%が週何日かを元々のオフィスで勤務、20%が別のオフィスを選択、20%は完全リモートワークになると想定しているという。

 これに対し、「週3日出勤」から距離を置くのがメタ(旧フェイスブック)だ。オフィス回帰を認める一方で、職務が遂行できるならば完全リモートワークも可能としている。向こう5~10年で従業員の半数が自宅で勤務するとの見通しを示す。

 こうした柔軟な働き方は製造業にも広がりつつある。自動車大手フォード・モーターは8月、世界で8万6000人に上るオフィス未復帰の従業員を対象に、「ハイブリッドモデル」を検討していること明らかにした。詳細は定かでないが、オフィス勤務とリモートワークの組み合わせを想定しているようだ。

 総合化学大手スリーエム(3M)も8月、9万人の従業員を対象に「Work Your Way」と名付けた柔軟な働き方を取り入れることを公表。従業員はリモートかハイブリッドのどちらかを選択できる。その対象はまずはオフィス勤務、次に研究室勤務でも自宅で事務処理ができるようにする。最終的には工場勤務の従業員にも柔軟性を与える方法を検討する予定だという。

 一方、リモートワークの弊害に懸念を抱いている企業もある。例えば、金融大手JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOは、リモートワークが企業文化の醸成や、人材育成・イノベーション創出に悪影響を及ぼすと考え、従業員にオフィスへ戻るよう求めた。だが同社もハイブリッドワークの流れを無視できず、結局、一部の従業員にはハイブリッドワークも認める方針。従業員100人当たりアドレスフリーの約60席を用意することを検討しているようだ。

米有力企業が検討中「新たな働き方」
図表(出所)各社発表、各種報道を基に筆者

 こうして見ると多くの企業に共通するのが、オフィス勤務とリモートワークを併存させる「ハイブリッドワーク」の模索である。その背景には、コロナ禍でリモートワークに馴染んだ従業員サイドからの柔軟な働き方への強い要望がある。メキシコ自治工科大学のホセ・マリア・バレロ准教授らが米国企業勤務の従業員を対象に2021年6月実施した調査によると、勤務先が週5日オフィス勤務の方針を提示した場合、4割以上の人が転職を考えるという(CBRE, Office occupier sentiment survey united states results, spring 2021.Jose Maria Barrero, Nicholas Bloom, Steven Davis. " Let me work fromhome, or I will find another job," CEPR VOXEU, July 2021.)。

勤務先が週5日オフィス勤務方針を提示した場合の対応(%)

図表(注)自宅で週に1日以上勤務、もしくは休職中の米国企業従業員2232人を対象
(出所)Barrero, Bloom & Davis (2021)を基に筆者

 米国では今、離職者数が急増している。「大退職(Great Resignation)」と呼ばれる現象が起こっており、9月の離職者数は622万人に上った。コロナ禍からの経済再開で人手不足が深刻化。一方、求職者は給料の高さだけでなく、リモートワーク継続などより柔軟な働き方を求めているという指摘もある。

 企業がハイブリッドワークに本格移行するには、就業ルールの変更だけでは十分ではない。それ以外にもオフィス環境やITツール、マネジメントの在り方など、幅広く改革を求められる。それには経営陣・人事部門と従業員が双方とも納得できるよう、継続的な対話が不可欠となる。

図表(出所)米労働省を基に筆者

田中 美絵

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