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働く人の創造性を向上するには...

 「気軽にアイデア発表」「AIの活用を」

2023年12月12日

働き方改革

研究員
小川 裕幾

 経済成長の源泉として注目が高まる創造性の向上策を議論してきた「はたらく人の創造性コンソーシアム」(異業種10社参画、事務局リコー)は、「創造性のハードルを引き下げるべき」「AI(人工知能)利用は創造性の向上に向けたチャンス」など四つの提言を盛り込んだプログレスレポートをこのほど公表。併せて4提言などについて議論するパネルディスカッションを都内で開催した。

 パネルディスカッションでは「たくさんのアイデアを気軽に出せる場を開発する」「ダイバーシティを進めるなど新しい施策を取り入れる」といった創造性向上に向けた具体策について幅広い議論が交わされ、取り組み強化の必要性を確認した。

いきいき働く人に溢れる社会を

 コンソーシアム事務局を務めるリコーの山下良則会長は議論に先立ち、「創造性について一度真剣に考える場がほしかった」とコンソーシアムの設立経緯を説明。「働く人が創造性を発揮し、いきいきと働く人に溢(あふ)れた社会を目指したい」と強調した。

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あいさつするリコー山下良則会長【9月29日、東京都中央区】

 ディスカッションは2部構成で行われ、第1部は「創造性に対するハードルを下げるには何が必要か」がテーマ。ビジネスにおける創造性の課題、課題を乗り越える方法、課題に対してコンソーシアムが果たすべき役割について議論した。

誤解している可能性

 創造性をビジネスで扱う際の課題についてパソナの湯田健一郎氏、AKKODiSコンサルティングの大鳥直人氏は、「創造性を明確に定義できていない。そのため、創造性が高い人材・低い人材の評価が難しい」と指摘した。

 また、oViceのジョン・セーヒョン氏は、「多くの日本人は創造性という言葉を難しく誤解している可能性がある。創造性とイノベーションを区別して考え、創造性は誰もが発揮できることを認識する必要がある」とした。

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第1部のパネリストとファシリテーター(左)

身近に感じる仕組みを

 こうした意見を踏まえて一橋大学の永山晋准教授は「日本企業の施策は、実は創造性にひもづいていることが多いが、社員はそれに気づくことが少ない」と指摘。このため、「企業は社員に創造性をより身近に感じてもらえるような仕組み作りが必要だ」と語り、企業に新たな施策が求められていると強調した。

 企業に求められる新たな施策として湯田氏は「創造性を身近に感じてもらうためにたくさんのアイデアを気軽に出せる場の開発」を提案。ジョン氏は社員と会社側のそれぞれに必要な対応について「(社員は)日頃の業務改善など身近な仕事と創造性を結びつける。(会社側は)社員の住まいを限定しない、ダイバーシティを進めるなど新しい施策を取り入れる」ことなどを提案した。

 次に、創造性のハードルを下げるために、コンソーシアムが果たすべき役割について議論した。大鳥氏は、「自社のイノベーションを起こすための施設、イノベーションラボを社外と有効に活用すること」、ジョン氏は「創造性を向上させながら、会社の利益を出すことが可能となる施策の立案」、湯田氏は「コンソーシアムで創造性に関する議論を重ね、そこで出たアイデアや提言をさまざまな媒体を通して社会に発信すること」を提案した。

旅行が果たす役割

 第2部のテーマは「創造性に対する取り組みをどのように活性化するか」。取り組み活性化に向けた各社の課題について意見交換した。

 JTBの渡邊健介氏は「現在提供しているアグリワーケーションⓇなどを活用すれば、見知らぬ土地で未知なるモノや人との出会いを体験するため、創造性の向上に貢献できる可能性がある」と述べ、旅行が果たす役割の重要性ついて指摘した。

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第2部のパネリストとファシリテーター(左)

オフィス空間で実証実験

 NTT都市開発の渡邉裕美氏は、「創造性を向上するオフィス空間とは、一体どのようなものか日々実証実験を繰り返している」と述べ、「創造性を高めるオフィス空間の開発を進めている」と説明した。

 これに関連してイトーキの秋山恵氏は「オフィスは生産性向上だけではなく、創造性向上を視野に入れたソリューション提供が必要と感じている」と強調。さらに「大学や展示空間など、さまざまな場所で実証実験を行っている」と述べ、NTT都市開発と同様の取り組みを行っていることを紹介した。

お互いを受け入れる

 渡邊裕美氏は、創造性をめぐる課題が三つあるとした上で、「第一に創造性をどのように測るか。第二に創造性を発揮する際に、ポジティブな効果をもたらすとされるウェルビーイング(肉体的、精神的、社会的にすべてが満たされた状態)を高めること。最後にオフィスでいろんな人とつながり、お互いを受け入れることが必要なため、多様性が必要だ」と強調した。

 渡邉健介氏は、「まずは最も身近な社内に創造性を浸透させ、創造性ビジネスの理解を深めていきたい」と語った。一方、「社外ではプログレスレポートを活用しながら、今後広く創造性が必要だとの認識が広がり、創造性への投資を引きだしていきたい」と述べた。

自己決定が大きく関与

 こうした議論を踏まえて永山准教授は「働く人の創造性には、働く人がどのくらい『自己決定(働く人が職場において、自分の意思で物事の判断・選択などをしたか)』をしたかが大きく関わっている可能性が高い」と指摘。その上で、「仮にそうである場合、今後創造性の指標を新たに作成するよりも、どのくらい『自己決定』したかをモニタリングする仕組みが必要ではないか」との認識を示した。

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永山准教授

【パネルディスカッションの参加者一覧】
湯田 健一郎(株式会社パソナ 営業統括本部 リンクワークスタイル推進統括/ゼネラルエキスパート)
ジョン・セーヒョン(oVice株式会社 代表取締役CEO)
大鳥 直人(AKKODiSコンサルティング株式会社 Products & Consumer事業本部 スマートプロダクツ第2事業部 マネージャー)
渡邊 健介(株式会社JTB ビジネスソリューション事業本部 第四事業部)
渡邉 裕美(NTT都市開発株式会社 デジタルイノベーション推進部 デジタルデザイン部門 主査)
秋山 恵(株式会社イトーキ DX推進本部 デジタルソリューション企画統括部 デジタル技術推進部 部長)
永山 晋(一橋大学 ソーシャル・データサイエンス教育研究推進センター 准教授)

 


 

■プログレスレポートの提言骨子・要旨

 「はたらく人の創造性コンソーシアム」が公表したプログレスレポート「『創造性』で切り拓くはたらく人の未来」の提言骨子と要旨は次の通り。

 【提言骨子】

・創造性はイノベーションの源泉であるため、もっと注目すべき

・創造性は特別なものでなく、身近なものと捉えるべき

・創造性向上には具体的な取り組みが重要

・生成AIは創造性向上に役立つ可能性がある

 【要旨】

 どうすれば、働く人の創造性を向上させられるか、ビジネスとしてそこにどう貢献できるか。この点について異業種10社が参画する「はたらく人の創造性コンソーシアム」で議論を重ねてきた。レポートは、これまでの検討成果を提言としてとりまとめたものである。

 創造性とは何か

 コンソーシアムでは、創造性を「ある『ドメイン』における『新規』かつ『有用』な『アイデア』の創出」、そしてイノベーションの源泉であると定義。創造性にはさまざまな誤解や思い込みがあるが、創造性は決して特別なことではなく、一握りの人だけが有するものでもない。そして創造性は社会を変えるような革新性を有するものだけではない。

 では、多くの働く人の創造性をどのように支援することができるのだろうか。それには、個人のみならず、集団(チーム、会社)それぞれに対して新規性のみならず、ビジネス領域(ドメイン)における有用性を高める適切な施策が必要となる。こうした考えを基に「創造性支援フレームワーク」を考案した。

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創造性支援フレームワーク(出所)はたらく人の創造性コンソーシアム

創造性の発揮が求められる背景

 はたらく人の創造性が求められる理由は何か。一つ目は創造性が経済成長の源泉であること。二つ目は創造性が働く人のウェルビーイング、ワークエンゲージメントと密接に関係していること。そして三つ目はAI時代において、創造性こそがはたらく人に求められるスキルとなることだ。

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重要性が増すスキル(出所)世界経済フォーラムを基にはたらく人の創造性コンソーシアム

 はたらく人の創造性に対する意識と取り組み状況

 重要性が高まる創造性について、実際の働く人々の意識と取り組みの現状はどうなっているのか。コンソーシアムが実施した日米アンケート調査からは、以下3点が浮かび上がった。具体的には①創造性の重要性について、日本は重視する人の割合が少ない。②日本では、「会社が創造性の発揮を奨励・支援していると思う」割合は、自分自身の仕事に創造性が重要だと思う割合よりも相当低い。③創造性に寄与すると考えられるおよそすべての取り組みについて、実施している割合で日本は米国を下回る―。これらは創造性に対する注目の低さや、「敷居の高さ」の表れとみられる。

AI時代の創造性

 これから先の創造性発揮には何が求められるのだろうか。生成AIに詳しい有識者からは、生成AIそれ自体が、人の創造性発揮を支援するツールとしてのポテンシャルを持っていることが指摘された。それと同時に、人が培うべきスキルも見直しが必要かもしれない。

四つの提言

=骨子に同じ(略)

今後の取り組み

 今後、本コンソーシアムでは、提言を具体化し実現可能なものとすべく、実証実験やさらなるリサーチなどを検討し進めていく方針だ。多くの方々より、幅広い情報や意見、自社の取り組み事例(あるいは悩みでも)などを積極的にフィードバックいただきたい。

参考

・公式ホームページ:https://creativity-consortium.ricoh/

プログレスレポート「『創造性』で切り拓く はたらく人の未来」

アンケート調査結果「2023年 はたらく人の創造性アンケート調査 =意識と取り組みの日米比較=」

 問い合わせ

はたらく人の創造性コンソーシアム 事務局

Mail:zjc_creativity-consortium@jp.ricoh.com

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小川 裕幾

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この記事は、2024年1月4日発行のHeadLineに掲載予定です。

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