2020年01月17日
働き方改革
主任研究員
古賀 雅之
令和になって初の年明け、久しぶりに家族4人(妻、長女27歳、長男23歳、筆者)が顔を合わせた。駅伝好きのわが家は、自宅近くの権太坂(ごんたざか、横浜市保土ケ谷区)で箱根駅伝を楽しむのが恒例行事。だが今年は都心に足を延ばし、最終区間(第10区)の日本橋(東京都中央区)で観戦した。
子どもたちは妻と筆者の手を離れるまでに成長。それにより野菜作りや国内旅行など、夫婦2人で「非日常」を味わう活動が増えている。そこで2019年11月、筆者が勤めるリコーの「勤続35年リフレッシュ休暇制度」を利用し、妻と伊勢志摩を旅行した。昭和気質が抜けきれないため、会社を連続して休むことに多少後ろめたさを感じたが、上司の理解もあり前後の土日を含めて9連休となった。
旅行は11月13~15日で、伊勢と志摩にそれぞれ1泊ずつした。初日の伊勢では、習わしに従い外宮、内宮の順に参拝。鳥居をくぐり、秋のやさしい木漏れ日の差す参道を歩くと、日頃味わうことのないすがすがしい気持ちがあふれる。同時に、思わず背筋がピンと伸びた。2日目の早朝には、独りで再び外宮を参拝。天皇陛下が即位後初めて行う新嘗祭(にいなめさい=稲の収穫を祝い、翌年の豊穣を祈願する祭儀)である、「大嘗祭当日祭」に出くわすといった得難い経験をした。参拝後は、太く非常に柔らかい麺が特徴の「伊勢うどん」には一発でハマってしまった。
外宮前
内宮前・おかげ横丁
その日の午後には志摩へ移動。英虞(あご)湾クルーズに乗り、緑葉との調和が美しいリアス式海岸を堪能したり、養殖真珠工場で養殖真珠の核入れ作業の実演を見学したりした。そしてハイライトは、滞在ホテルから見た夕日。真っ赤な炎が揺らぎ始め、徐々に深緑の彼方に消えていく様を目にした時は、体が震えるほどの感動を覚えた。まさに「非日常」の体験が連続して訪れた今回の旅行―。妻も筆者も体の隅々にまで令和時代の新しい息吹が吹き込まれたような感覚に陥った。少しかみ砕いて言うと、身も心もすっかりリフレッシュし、明日からまた新たな1日を踏み出そうという気力が満ちてきたのだ。
英虞湾に沈む夕日
なぜ旅行で心機一転できたのか―。帰京後、この問いがふと筆者の頭に浮かんだ。実はこれまでの研究でその科学的根拠が明らかになっている。旅先で普段と異なる文化に触れたり、今まで食べたことのない料理に舌鼓を打ったりする体験は、セロトニンやドーパミンといった、いわゆる「幸せホルモン」を誘発する。それによって、「新しく何かに挑戦したい」といったポジティブな気持ちを抱かせるとともに、ストレス低減など精神状態にも良い影響を及ぼすのだ。
「よく学び、よく遊べ」―。筆者は小学校の頃、学校でこう習った。幼心に遊びよりも学びが優先するのだろうなと思っていたが、本当は「勉強するときはしっかり勉強し、遊ぶときはよく遊ぶべきだ」という意味だそうだ。また、この格言を英語では、「All work and no play makes a Jack a dull boy.(勉強ばかりさせて遊ばせないと子供はだめになる)」と表現する。日本人的発想ではworkとplayの位置が逆のような気がするが、大意に差はない。
働き方改革やワークライフ・バランスが声高に叫ばれる昨今、仕事以外の時間は増える傾向にある。そうした時間をいかに有意義に使い、体と脳をリフレッシュさせるか。そこで筆者は「よく遊び、そしてよく働け(学べ)」を提唱したい。余暇の過ごし方が充実すれば、仕事に対する気力も湧き、結果的に効率の良い働き方に結び付くのではないか。今回の旅行を通して自ら得た教訓でもある。
旅行には別の効用もある。最近、妻から「次回はいつ、どこへ行くの」と矢のような催促が来るようになったのだ。オランダの心理学者であるJeroen Nawijnによると、次の旅行の8週間も前から幸福度が高まるそうだ。しかしながら、旅行後に高まった幸福度が持続するのは、たった2週間。となると、妻を毎日笑顔にするには、年に5回程度の旅行が必要になる計算になる。限られた財布から捻り出すには相当真剣に考えなければならない問題だ。働き方改革の先には、「余暇改革」が必要になりそうだ。
(写真)筆者
古賀 雅之