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3Dプリンターに関する規格とは?AM規格化の現在~最終部品製造が規格化の原動力

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3Dプリンターに関する規格とは?AM規格化の現在~最終部品製造が規格化の原動力

「3Dプリンターは規格化もすすんでいない未成熟な技術」という認識を改めなければいけないようです。日進月歩で高性能化がすすみ最終部品での利用が進んできたことで、ドイツやアメリカを中心にAM(アディティブ・マニュファクチャリング:付加製造)と呼ばれる3Dプリンターを活用したモノづくりが浸透し、規格化の動きが進んでいます。日本でもJIS規格としてAMに関する規格が登場するなど、開発や製造に携わる関係者が知っておくべき重要な内容となりつつあります。ドイツでAM規格化に早い段階から取り組んできたテュフズードジャパン株式会社の畝 竜哉氏と永野 知与氏にAM規格化の現在に関してお話を伺ってきました。
(話し手:テュフズードジャパン株式会社 アディティブマニュファクチャリングチーム 畝 竜哉氏 永野 知与氏 聞き手:3DPエキスパート編集部)

世界で活発化するAM関連規格

AM関連の規格に関する動きが活発化してきたと聞いています。現状ではどのような規格があるのでしょうか?

歴史を振り返ると、どんな産業技術も規格と共に成長してきました。AMも同様です。この技術はどんな技術なのか、データ処理する際のファイルフォーマットはどのような仕様なのか、AMに関する注文書でやり取りするための項目はどんなものがあるかなど、齟齬なく誰もが理解できるように、共通化したほうがよい内容を明文化したものが規格として制定されています。代表的なものをいくつかご紹介します。

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「AM製造センターの妥当性」を定めたDIN SPEC 17071

上の表を見るとたくさんの種類があり、どれも重要にみえますが、AM関連規格としては、どこから手を付けたらよいでしょうか?

AMの規格は今後も増えていくと思いますが、現時点でまず一つだけ選ぶとしたら「AM製造センターの妥当性」を定めたDIN SPEC 17071をお勧めします。DIN SPEC 17071はドイツ規格協会(DIN)が策定した規格で、2021年9月現在ではAM品質保証関連の規格で正式に発行されている唯一の規格です。ご存知のように品質はモノづくりにおいて非常に重要です。AM製造に取り組む設計・製造・品質管理部門の人だけではなく、AMで部品を調達したい買い手やAM部品を販売したい売り手も知っておくべき内容を扱っているので、認証取得まで考えていない方にとっても役立つ内容になっています。

AMに関する品質保証を理解するための3種類のレイヤー

品質保証の規格というと、ISO 9001のような品質マネジメントに関する規格を思い出す方も多いと思います。先ほどご紹介いただいたDIN SPEC 17071や現在策定中のISO/ASTM 52920とISO 9001との違いはどのあたりにあるのでしょうか?

ISO 9001もDIN SPEC 17071も同じ品質保証の規格ですが、位置づけが異なるものです。私たちはAMに関する品質保証規格を「組織の妥当性」「AM製造センターの妥当性」「個別工程・製品の妥当性」という3つのレイヤーで整理しています。ISO 9001は組織としての妥当性を定めた規格で、DIN SPEC 17071はAM製造センターの妥当性を定めた規格です。

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組織の妥当性

「組織の妥当性」というレイヤーは、ISO 9001のように、組織として品質に向き合いマネジメントしていく取り組みを規定しています。非常に重要で欠かすことができない規格ですが、特に業種や加工方法、工程に特化した内容ではないので、ISO 9001を取得しているから3Dプリンターの品質が担保できるものではありません。

AM製造センターの妥当性

「AM製造センターの妥当性」を考えている規格としては、私たちテュフズードジャパンが策定にもかかわったDIN SPEC 17071やその国際標準規格であり現在策定が進んでいるISO/ASTM 52920などがあります。
AM製造センターがモノづくりをする際の品質保証範囲を明確に規定し、そこで必要な観点を規定していますので、AMにかかわる方全員に知っておいていただきたい内容が書かれている重要な規格です。取引先からの取引条件の一つに規格認証をうけていること、という条件がつけられることも今後は出てくるかもしれません。

個別工程・製品の妥当性

「個別工程・製品の妥当性」は、たとえばロケット部品や人工骨のように特定の業界の特定の部品製造に特化して妥当性を求めている規格です。材料、工法、装置、加工プロセスなど詳細化されています。

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AMの品質管理に関する規格にレイヤーがあることは理解できましたが、実際の日本企業の反応はいかがでしょうか?

これから検討する段階の企業様が多い印象です。日本の多くの企業がISO 9001やISO 13485、AS 9100に代表される品質マネジメントシステムの認証を受けていて、品質保証規格に関しても理解があります。「うちはISO 9001を取得しているので、追加のAM関連規格は不要なのでは?」と相談されることもありますが、そんなときは「最終製品としてAMで製品を製造する際には重要になってきますよ」とお答えしています。

最終部品製造で重要が増すAM関連規格

実際に3Dプリンターを活用したモノづくりが進んでいる航空宇宙、医療などの分野は規制産業と呼ばれるように、法的に一定の基準に基づいた品質管理と基準の達成を求められる業界です。すでに業界ごとに「組織としての妥当性」や「製造センターの妥当性」や「個別工程・製品の妥当性」を担保するための規格化が浸透しています。他の工法と同じようにAMに関しても規格化対応がはじまっているのです。

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取引に際して、ノウハウとして実践しているだけではなく、国際的な基準にのっとって妥当性を評価した認証を取得する必要がある業界では、AMに関する規格化の取り組みは今後も拡大していくでしょう。また業界規制がない場合でも規格に準拠した取り組みを行うことが有効です。

例えば、顧客側がまだ新しい技術であるAMに対して不慣れで、品質に関して適正なものさしを持っていない場合があります。他の工法ではありえないことですが、「100%良品でない場合、不良品を作り直して納品してほしい」といった理不尽な要求がされるケースも過去実際にあったと聞いています。このような話も未成熟な技術分野では起こりえるのです。そこで規格という共通言語によるものさしの共有化が重要になってきます。

品質保証規格は「作り方をばっちり決めること」を求めている

共通の認識を持つことが品質保証規格の導入の目的になってくるのですね。導入する際にはどんなことを意識しておくべきでしょうか?

規格による品質保証の根本にある考え方は「作り方をばっちり決めることが品質を担保する」という考え方です。品質に影響を与える要因を明確にして、各要因に対して、一定の水準を維持できるような、工程・人材の能力・インフラを定めることが規格の要求内容になります。

1000度で5分熱処理をするという作業指示に対して、実際は1002度で5分7秒加熱したことを記録し、その結果求める強度が出ていた ―― というような検証をする仕組みを持っておくことが管理体制になります。この管理体制を整備し妥当性を検証しながら、品質を実現することが品質に関する規格の目的になります。

品質を確かめるためにすべて破壊検査をしていたら、実際に使える部品がなくなってしまいますから、品質を担保するために「ばっちりやり方を決めました」という形で、品質を担保するのです。

製造にかかわる方は皆さん当たり前にやっていることだと思うので、明文化して手順を守っていく事の重要性がお分かりになると思います。こうした手順はノウハウそのものです。品質保証規格の要求に準拠していることを第三者機関の認証を得て、こうしたノウハウの積み重ねを第三者から評価されていることを示すことができます。

自社に適した規格の探し方

最後に、それぞれの企業に合った規格の探し方に関して、教えてください。

一番の近道は、専門家に相談することです。弊社のように規格の策定にかかわる認証機関は、規格導入に関してもサービス提供しておりますので、ご相談いただければと思います。もしご自身で探される場合は、規格の用途と規格の適用範囲から、どういった規格が参考になるのか探してみるとよいと思います。

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まとめ

AMによる最終製品製造が増えてきたために、品質がクローズアップされています。それに伴って品質保証に関する規格が重要度を増していること、品質について買い手側の購買担当者や製造部門担当者、売り手側の販売担当者や製造部門担当者が共通理解を持つために品質保証規格は重要な役割を果たすことなどが、今回のセッションで理解できました。

規格準拠は非常に手間がかかりますし、認証取得には費用もかかります。ですが、規格を使わずに自分でゼロからはじめるよりも、規格を活用したほうが手間もかからず、国際的な標準レベルに近づく近道なのも事実です。また適切に規格を取り入れて運用しているかを第三者の審査をうけて認証取得することは、買い手に信頼を与えることができますし、今後最終部品の製造に取り組む際には避けて通れないステップになるかもしれません。

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(リコーだからできる事)

リコーは3Dプリンターをものづくりの現場で20年以上にわたって活用してきました。 製品の試作に始まり治具製造、さらには最終製品製造へと適用範囲を広げております。 2014年以降、自社で蓄積してきたノウハウを活かして 3Dプリンターの販売や3Dプリンター出力サービスを提供しております。

3Dプリンター出力サービスでは、お客様のご要望やご予算に合わせて 最適な造形材料・造形方式・後加工などをご提案しています。 従来の加工方法(切削/射出成型など)とは異なる、 3Dプリントの特性を最大限に活かした造形を丁寧にご支援します。

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