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現地に赴いた専門家が語る!世界最大級の3Dプリンター国際展示会Formnext 2021最新レポート

コラム
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現地に赴いた専門家が語る!世界最大級の3Dプリンター国際展示会Formnext 2021最新レポート

新型コロナウイルスの影響で開催が見送られてきたオフラインイベントも、2021年秋頃より徐々に実施される傾向となってきました。そんなタイミングとなる2021年11月、開催に漕ぎつけた世界最大級の3Dプリンター国際展示会「Formnext」(フォームネクスト)。関係者にはお馴染みの会場メッセ・フランクフルト(ドイツ・フランクフルト)まで視察に向かわれた一般社団法人 日本3Dプリンティング産業技術協会の研究員・松岡 司氏に、現地でご覧になった世界の3Dプリンター界の動向や、日本としてぜひとも取り入れたい最新技術についてお伺いしました。

Formnextとは

Formnextは、3Dプリンティングなどのアディティブ・マニュファクチャリング(Additive Manufacturing:AM)技術に関する世界最大規模の展示会およびカンファレンスです。2015年以降、毎年11月にドイツ・フランクフルトの展示場「メッセ・フランクフルト」で開催されています(2020年はコロナ禍の影響でオンライン開催のみ)。

Formnext 2021は、2021年11月16日~19日の4日間にわたり開催されました。また2021年11月30日~12月1日には、オンラインイベントである「Formnext Digital Days」も行われました。

2021年の出展者数は606社。造形装置や後処理装置を扱う企業、ソフトウェア開発企業、造形サービスプロバイダに加えて、研究所や標準化団体などの参加もみられました。

プロフィール

松岡 司
一般社団法人 日本3Dプリンティング産業技術協会 常務理事・研究員 中小企業診断士
これまで株式会社リコーにて、3D CAD、3Dビューワ、ナレッジ設計システム、3Dパーツカタログシステムといった3D技術を活用したシステムの研究開発を手がける。同協会の研究員として、3Dプリンティング技術に関する海外の動向や技術面についての調査・報告・執筆と業界の推進にも大きく関与。3Dプリンティング関連セミナーや研究会の企画・運営、同協会会員企業のコンサルティングにも携わる。

Formnext 2021の模様を伺う

海外における3Dプリンター業界の最新動向

ドイツ・フランクフルトで開催された世界最大級の3Dプリンター展示会 Formnext 2022の会場内の模様。日本にはまだ届いていない最新技術が集結していました。

2021年のFormnextは、2年ぶりのオフライン開催となりました。会場ではどのような技術に注目が集まっていましたか。

1つはサポートレス造形ですね。従来の3Dプリンターでは造形物を支えるためにサポート材が必要でしたが、最近はサポート材を少なくする動きが広がっています。今回のFormnextでも、サポートレス関連の造形装置メーカーやソフトウェア開発企業の出展が多く見られました。例えば、アメリカのスタートアップ企業 VELO3D社は露光条件を工夫したサポートレス造形装置を出展していましたし、ドイツの3Dプリンティングサービス企業 AMSIS社はサポートレスを実現する設計ソフトウェアを開発しているようです。サポートレス関連のノウハウは、年々進歩していると感じます。

Formnextに出展していたVELO3D社やAMSIS社のブースには、サポートレスでの3Dプリンティングに成功した造形物が展示されていました。

また、コンテナ内部に造形ユニットを収納した可搬型の造形装置(モバイルソリューション)に関しても、多くの企業が出展していました。

サポートレスや移動式装置など、業界として新たな動きが生まれているのですね。従来技術の発展という点では、何かありましたでしょうか。

独自のC-CAT(Carima Continuous Additive Technology)を用いた3Dプリンターで造形実演していた韓国のCarima社。

驚いたのは、造形速度の向上です。特に樹脂造形の分野では、速度向上に向けた研究開発が進んでいるようです。例えばUV樹脂の光硬化では、LEDやプロジェクターを使用した「面」単位の露光により、高速造形が可能となっています。韓国のCarima社は、600mm/hrでの造形を実演していました。20cmほどの造形物が約20分で出来上がっていく速さには驚かされました。

また、表面処理などの後処理技術も2年ほど前から急速に進歩しはじめています。金属材料だとスペインのGPAINNOVA社、樹脂材料だとドイツのDyeMansion社が有名ですね。GPAINNOVA社の電解研磨装置は、自動化を目指してさらなる研究開発が進められているようです。

従来、3Dプリンターはプロトタイプの製作に活用されるケースが主でしたが、最近は最終製品の製造にも用いられるようになりました。造形物を最終製品として使用するには、出来上がったものに表面処理などの後処理を施して、その力学的特性を向上させる必要があります。GPAINNOVA社の取り組みはこの後処理技術の進歩に直結するもので、最終製品への取り組みが加速化していることを実感させてくれました。

世界の3Dプリンティング業界の動向に変化はありましたか。

造形装置メーカーもソフトウェア開発に力を入れはじめたな、という印象が強く残りました。メーカー製のソフトウェアにも、設計機能や各種の便利機能が搭載されるようになってきましたね。

造形装置メーカーは、使用する材料に関してもかなりオープンになってきた印象です。以前は自社で試験した材料の使用を推奨する傾向がありましたが、最近は利用する材料にサードパーティー製の材料を認可したり、ユーザー企業の独自材料開発を支援したりする動きも出てきました。

複合材料や植物由来材料の開発も進んでいます。2021年あたりからは、環境に優しいサステナブル材料の開発・使用をアピールする企業も増えていますね。

3Dプリンターのモバイルソリューション

先ほど可搬型造形装置(モバイルソリューション)が多く出展されていたというお話が出ました。こちらに関してくわしく教えてください。

MEX方式の金属造形ユニットや後処理ユニットを1つのラックに組み込んだ独Xerion社製の可搬型造形装置(モバイルソリューション)。

モバイルソリューションは、その名のとおり持ち運びできる造形装置です。可動式のコンテナ内部に造形ユニットが収納されており、さまざまな場所で造形ができます。

モバイルソリューションの目的は、現場近くで造形を行い、輸送コストを抑えたりリードタイムを削減したりすることです。オイル&ガス、軍事、医療などの分野で使用が期待されています。例えば今回のコロナ禍では、サプライチェーンの分断による医療物品不足を補うため、このモバイルソリューションを使用して現地でフェイスシールドが生産されました。

Formnextで注目を集めていたのは、Xerion社、Bionic Production社の2社とドイツの巨大研究機構の研究拠点であるFraunhofer IAPTです。Xerion社は、金属造形ユニット(造形、脱脂、焼結)や後処理ユニットなどを1つのラックに組み込んだ装置を開発していました。またFraunhofer IAPTは、「造形速度」や「現場で修理可能か」といった複数の評価指標を元に、どの方式のモバイルソリューションがどの用途に向いているかを公表しています。

モバイルソリューションは、今後も注目すべきトピックスだと思います。

日本の3Dプリンター市場を活性化させるカギ

世界に比べて日本は3Dプリンターの産業規模が小さく、技術的にも後れをとっているのが現状です。日本の3Dプリンター市場を活性化させるうえで必要なことは何だと思われますか。

まず考えるべきは、3Dプリンターが本領を発揮する対象にしぼって3Dプリンターを導入することです。海外でも、軍事や航空宇宙など、特定の分野での3Dプリンターの活用が多く見受けられます。

一方、日本の産業構造に目を向けると、自動車産業が盛んですが、軍事や航空宇宙、医療といった分野の産業規模は欧米に比べると小さいです。自動車分野での3Dプリンター活用は欧米でも始まってまもなく模索している段階ですので、日本もこれから世界をリードしていく可能性は十分にあります。まずは得意分野での先行事例を関係各位に知ってもらい、横展開させるイメージで日本の得意な自動車分野での導入・活用を進められるような後押しをするのが良いと考えています。

これらの分野で3Dプリンターの導入を進める際に、気をつけるべき点はありますか。

現在も、3Dプリンターの技術は日進月歩で進歩しています。また、3Dプリンターを取り巻くインフラ、つまり、使いこなしの知識蓄積やソフトウェア等もまた進歩を続けています。これまで困難だった問題も克服する努力が継続されているということです。ですので、日ごろから海外メーカーの最新機種をチェックしたり、海外での3Dプリンター導入事例を確認したりしておくことが重要です。

従来の製造方法を3Dプリンターでの製造に単に置き換えた結果、精度が不足してしまう、製造時間が大幅に増加してしまう、といったケースもありますので、特に大手企業は3Dプリンターの導入に慎重になる傾向があります。しかし、3Dプリンターの活用に適している対象もあればそうでない対象もあります。3Dプリンターの本領が発揮できる対象であれば、明確なコスト削減や納期短縮が実現できるケースも多いので、3Dプリンターの活用する対象を適切に絞り込むことが重要です。そのため、3Dプリンターの活用に関する知識や事例を今以上に広めていく必要があると考えています。

最後に、3Dプリンターの導入を検討している日本企業に向けてメッセージをお願いします。

日本の3Dプリンター業界は今回のコロナ禍で多少失速しましたが、今後市場は右肩上がりになっていくものと予測されています。他社の導入事例や新製品の特徴などを総合的に判断して、3Dプリンターの導入を進めていただきたいと思います。

まとめ

サポートレスやモバイルソリューション、造形速度向上や後処理技術の進歩など、さまざまなトピックスに注目が集まった今回のFormnext。海外の3Dプリンター関連企業は、コロナ禍においても着実に新たな技術開発を進めているようです。日本企業が3Dプリンターを導入する際に気をつけるべき点や、どのような分野で3Dプリンターの導入を進めるべきかといった点も、今回のお話で理解できました。

今回お話を伺った松岡司さんも講師を務めるオンデマンドセミナー「3Dプリンティング海外動向報告会 ~欧州にみる3Dプリンター最先端技術のご紹介~」が2022年1月4日~6月30日の期間で開催されます。Formnext 2021における海外の動向をよりくわしく知りたい方は、ぜひこちらのセミナーにご参加ください。

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