3DPエキスパート

材料の拡充で用途を広げるSLA方式

コラム
  • #最終部品製造
材料の拡充で用途を広げるSLA方式

3Dプリンターの歴史の中で最も古い手法といわれているSLA方式(Stereolithography Apparatus:光造形方式、別名VPP方式: 液槽光重合法)は樹脂3Dプリンター市場ではMEX方式(Material Extrusion: 材料押出積層方式 別名FDM方式)の後塵を拝していましたが、近年全世界的に出荷台数が急成長しています。SLA方式の急成長の理由、今後の展望について取り上げてみたいと思います。

樹脂3Dプリンターの中でのSLA方式の位置づけ

方式 強度 微細性
審美性
造形速度 必要付帯設備
MEX方式(材料押出積層方式)
高い耐久性や耐熱性を得やすいので、試作品や治具、簡易型の造形などにおすすめです。
× なし
SLA方式(光造形方式)
もっとも古くからある方式で、高精細かつ表面の滑らかな造形物を作成することが可能です。
空調設備・洗浄装置
LCD/DLP方式(光造形方式)
DLPシステムにて一括露光することで高速造形を実現しながらも、SLA同等の高精度な造形を行い、細かいパーツなどの造形にも適しています。
空調設備・洗浄装置

SLA方式とは

SLA方式とは光造形方式の一つで、光硬化性樹脂の液体(リキッドフォトポリマー)に対して、レーザーを当て硬化させながら、造形プレート(ビルドプラットフォーム)に造形物を作り出します。表面精度が非常に優れており、等方性(物理的性質が方向によって違わない)が高いのが特徴です。また、プロジェクターのように面状のUV光を照射しながら造形してくLCD/DLP(Digital Light Processing)方式も光造形に含まれ、中国などではLCD/DLP方式の廉価で造形スピードが速いが精密度が若干SLA方式よりも劣るプリンターが続々と発売されています。 光造形方式では材料として使用されている光硬化性樹脂の液体、また造形後に洗浄の為に使用するアルコール類は換気や所定の廃液処理方法が必要となります。

column_detail16_img04.png

MEX方式との比較

MEX方式は取り回しが簡単なフィラメントを巻き付けたリールを利用することで、廃液処理等が不要でありオフィス内でも手軽に活用できます。またこのフィラメントには強度・耐久性・耐熱性・対候性の高い種類があり、目的に合った材料を簡単に装着できることも魅力です。しかしフィラメントを熱して溶かしながら一筆書きに部品を造形していくので、特に廉価帯の機種では、積層痕とよばれる段差のような跡が出てしまい、表面性は粗く研磨等の後加工を行い仕上げることが必要なことがあります。また線で一層ずつ積み上げるように造形するため、異方性があり、加わる力の向きによって歪みやたわみが出やすいという傾向にあります。

column_detail16_img03.png

新材料開発による拡大されるSLA方式の用途

SLA方式で利用できる材料が少なかった頃は、造形物の強度等の機械性能がMEX方式の造形物よりも劣っていました。したがってSLA方式の用途はその高精細・等方性特徴を活かし、デザイン確認や部品として製品に組付けたときに他の部品との干渉を確認する等を目的とした「簡易試作」が一般的でした。

しかし近年強度・耐久性・耐熱性・対候性が向上された材料が開発されて市場に投入されて機械的性能が向上したこともあり、「簡易試作」だけに留まらず、試作品に組付けて動作が確認できる「機能試作」、最終製品、簡易型等に用途の幅が広がってきました。近年広がりを見せるSLA方式の用途について具体例を4つご紹介します。


  • 高強度材料で治具製作
  • 高強度材料で板金成形の簡易型製作
  • 高靭性材料でシリコン成形の簡易注型製作
  • 高耐熱材料で低融点金属での簡易鋳造型製作
  • 高強度材料で治具製作

    アメリカのあるホームセンターでは、木材加工装置を稼働させる際に、精密な寸法精度、表面性が求められる位置決め治具を利用しています。最小発注数が1,200個で単価が10ドル、納期は3-4週間程度かかっていたということです。この精密な寸法精度、表面性が求められる治具をSLA方式にて高強度材料(Tough:タフ)を使用して作ることが出来ました。これにより最小発注数の縛りがなくなり、単価は5ドル90セントと40%削減、また納期的にも16個制作する際に15時間半と20分の1以下の納期で用意することができるようになったため、大きなコスト削減、納期圧縮を実現できたとのことです。

    column_detail16_img05.png

    高強度材料で板金成形の簡易型製作

    樹脂3Dプリンターでは樹脂しか造形することはできませんが、造形ショット数が少ない簡易型を3Dプリンターで造形することで金属部品の造形にも活用することができます。しかし板金成型で使用するので精密な寸精度、表面性が要求され、ショット数が限られているといってもある程度の強度が必要となるので、SLA方式で高強度材料(Tough:タフ)を選択しました。内製することでリードタイム・コストの削減を達成でき、変量変種生産に柔軟な対応をとる際の現実的な手段として注目されています。

    column_detail16_img06.png

    高靭性材料でシリコン成形の簡易注型製作

    製品や部品で利用している材料と同じ材料を使って試作品や少量製造をしたい場合があります。よく相談にあがるのがシリコンのような柔らかい樹脂材料です。3Dプリンターで注型を作ることで、内製化のハードルを大幅に下げることが可能です。高い表面性を持ち、シリコン製の製氷プレートをねじって取り出すために靭性が高い注型をSLA方式で高靭性材料(Durable:高靭性)を使用して製作することができます。

    column_detail16_img07.png

    高耐熱材料で低融点金属での簡易鋳造型製作

    スズや鉛、亜鉛などの低融点金属用の鋳造型は寸法精度・表面性が高いSLA方式にて耐熱材料(HighTemp:耐熱)を使用して様々な形状で製作することが可能です。電子部品や日用品などの強度を必要としない部品を制作する際に利用できるため、試作品を製作する際の選択肢が大きく広がります。

    SLA方式の今後

    比較的手軽に使うことができるMEX方式の3Dプリンターを活用し、試作品造形を繰り返しながらモノづくりのプロセス改善サイクルを効率化している開発者は着実に増加しています。こうしたすでに実践している方の中には、現状のMEX方式の精度に物足りなさを感じながら、装置の限界だとわりきってできる範囲で活用している方も少なくないかもしれません。しかし100万円以下で導入できるSLA方式の3Dプリンターでも近年、造形材料が多様化しより高度な造形が可能になってきました。精密でありながらより強度をもった治具の造形など、数年前にできなかった造形がSLA方式でも可能になってきています。

    今回は取り上げませんでしたが、透明材料を活用した治具製作など、試作開発時にさまざまな知見をえることができる材料も登場しています。年々進化するSLA方式の3Dプリンターはそんな方々の要望を実現する一つのソリューションとして完成度を高めてきました。数年前の常識にとらわれることなく絶えず進化する3Dプリンターを体験してみると新しい活用用途が見えてくるかもしれません。

    本記事に関連する製品はこちら

    Why RICOH 
    (リコーだからできる事)

    リコーは3Dプリンターをものづくりの現場で20年以上にわたって活用してきました。 製品の試作に始まり治具製造、さらには最終製品製造へと適用範囲を広げております。 2014年以降、自社で蓄積してきたノウハウを活かして 3Dプリンターの販売や3Dプリンター出力サービスを提供しております。

    3Dプリンター出力サービスでは、お客様のご要望やご予算に合わせて 最適な造形材料・造形方式・後加工などをご提案しています。 従来の加工方法(切削/射出成型など)とは異なる、 3Dプリントの特性を最大限に活かした造形を丁寧にご支援します。

    • 3Dプリンターに関するお問い合わせ
    • 3Dプリンターお役立ち資料